平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
最近は王太子殿下と親しくしているという噂も社交界でまことしやかに囁かれているが、王太子殿下にはマルグリット様という実質的な婚約者がいるわけで、眉唾物の噂だと俺は思っている。

まあ身持ちの悪い馬鹿女カトリーヌは、最近になってその王太子殿下に突如として迫っていると聞くが。

仮にもカトリーヌは俺の現在の婚約者だが、不敬でも働いて罰せられれば良いと密かに思っている。

そうすればカトリーヌの愚行を理由に婚約破棄も容易いだろう。

いくら我が公爵家といえど、家格が四階級も下の子爵令嬢であったシェイラの時とは違い、侯爵令嬢との婚約破棄となればそれなりの理由が必要になるのだ。

 ……どうせカトリーヌは俺の時と同じような手で王太子殿下に迫っているに違いない。であれば、王太子殿下の不興を買うのは時間の問題だ。万が一、いや億が一、王太子殿下がカトリーヌに好意を抱いたとして、それはそれで俺には好都合だしな。

カトリーヌのことなどこれっぽちも関心のない今の俺には、どちらに転んでも利点しかない。

それよりもシェイラだ。

カトリーヌのことは放置しておくとして、卒業を数ヶ月後に控えたシェイラを俺のもとに取り返さなくては。

今は婚約者がいなくとも、卒業パーティーに向けて新たな婚約者を決める可能性は高い。

シェイラはあの美貌だ。

おそらく相当な数の縁談が舞い込んでいることだろう。

 ……誰にも渡さない。そもそもシェイラは俺のものだ。俺がいち早く見初めて手に入れていたのだからな。手放してしまったからには責任を持って取り戻す。絶対に。

後悔の念から生まれた執着にも似た仄暗い感情が俺の心を支配する。

今の俺はシェイラを再び手にすることしか頭になかった。
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