平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

18. 元婚約者との遭遇

「じゃあ今日の打合せは以上で。次の学園会議での報告が最後かな。シェイラ、今まで多大な協力をありがとう。会議の際の報告はシェイラから頼むよ」

「……はい。承知いたしました」

激しい心の動揺を必死に押し隠したまま参加していた打合せがようやく終わった。

フェリクス様の締め括りの言葉を受け、私は恭しく返答し、速やかにその場を立とうとする。

だが、サロンを出ようとしたところでフェリクス様に腕を掴まれてしまった。

「シェイラ、どうかした? なんとなく顔色が優れないように見えるけど……」

引き留めながら心配そうにコバルトブルーの瞳で私の顔を覗き込んでくる。

こんなふうにカトリーヌ様のことも見つめるのだろうかと思うと、またしてもズンと心が重くなった。

「……ご心配ありがとうございます。もしかしたらここ最近寒い日が続いていますので風邪でも引いてしまったのかもしれません。恐れ入りますが、早めに帰宅して休ませて頂きたく存じます」

「あ、ああ…うん。それはもちろん構わないよ」

心の内を悟られたくなくて、心を防御する心理が働いたのか、無意識にいつも以上に丁寧な言葉遣いが口から飛び出た。

フェリクス様はなぜか一瞬言葉に詰まり、しかしすぐにいつもの朗らかな様子に戻ると、掴んでいた手を離して退出の許可を出してくれた。

これ幸いと、私はフェリクス様、そしてリオネル様の二人に挨拶を述べ、サロンをあとにする。

門に向かって王城を一人で歩きながら、脇目も振らず可能な限り早く足を動かした。

不思議なことに未だに胸がシクシクと痛む。

一体この心の動きは何なのだろうか。

初めて感じる胸の痛みに眉を寄せていた私は、すっかり視野が狭くなっていたようだ。

「シェイラ」

突然名前を呼ばれ、目の前にいた人物に危うくぶつかりそうになる。

下を向いていたから全く人の存在に気が付かなかった。

驚いて顔を上げると、そこには見知った人物が立っていた。

「……バッケルン公爵子息様」

「この前も思ったが、そんな呼び方は他人行儀で俺たちには相応しくないな。以前のようにギルバートと名前で呼んでくれないか?」

「……いえ、もう婚約者ではございませんし、一子爵令嬢の私にはお名前でお呼びするなど恐れ多いですので」

「そんなに恐縮する必要はない。俺とシェイラの仲じゃないか。まあ、そういう控えめで奥ゆかしいところもシェイラの魅力だったな」
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