Honey Trap
私の言葉に、男は「はぁ……」と小さく溜息を吐くと呆れたような表情を浮かべる。
「あのなぁ……、女の子だろ?いくらたった数メートルの距離でもこのご時世だぞ。冬場なんだから余計に少しでも時間の早いうちに……」
「よく言うわ」
反吐が出そうなくらい真っ当なお説教を遮ると、私は冷めた気持ちで尤もなことを告げる。
「教師ぶっちゃって。生徒に手を出してるくせに……」
「っ、……」
痛いところを突かれた、と言葉を失くす男に私は、くすり、とひとつ綺麗に笑ってみせる。
この関係を始めた時から私の方が優位なのよ。
ヘタに下手になんて出てやらないわ。
だいたい、都合のいい時だけ子供扱い、女扱いをしてその場を逃れようとするところが気に入らない。
心配している風を装いながら、決してその家までの数メートルを送ってくれるようなことはしない。
この男にとっては私との関係なんて、ふいに転がり込んできたただの暇潰しのお遊びでしかないのだ。
だからこの関係が続く限りは、男の思い通りになんてなってあげないのよ。