婚約破棄された錬金術師ですが、暗黒地底に放り出されたら冷徹な辺境伯様との楽しい毎日が始まりました
第1話:婚約破棄からの婚姻
「フルオラ・メルキュール! 俺様はお前との婚約を破棄させてもらうからな! 今さら泣いてすがってももう遅いぞ!」
「お義姉様! さっさと、この家から出て行ってくださる!? あんたの居場所はもうないのよ!」
頭の片隅に男女の声が聞こえるけど、きっと気のせいだろう。
ここビノザンド王国の地方にあるメルキュール家で、私は今日も錬金魔道具の開発に勤しむ。
自宅の隅っこにある狭い自室が、私の居場所兼開発室だ。
昔から……というより、前世から錬金術に強い関心があった。
極度の錬金術オタだったJK二年の私は、自分でアホな実験をした挙句事故死した。
だけど、錬金術を使いたいという熱量溢れる思いが神に通じたのか、フルオラ・メルキュールという少女として転生したのだ。
3歳の時に前世の記憶を思い出し、この世界に本物の錬金術があると知ったときは感動で震えたね。
あれから13年経ち、前世の自分が死んだ年齢になった。
毎日毎日没頭しても錬金術にはまったく飽きない。
飽きるどころか、夢にまで見た錬金術が使えるのが最高すぎて仕方がない。
窓を開けしみじみと外を見た。
空を飛ぶ雲のように、無限のアイデアが湧いてくる……。
「ククク、聞こえないフリをしているんだろう。お前はどこまでも性格の悪い女だ」
「それとも悔しくって、こちらを見ることもできないのかしら?」
メルキュール家は男爵家だったけど、弱小 of 弱小貴族なのでお金がなかった。
だから、生計を助けるため錬金術で魔道具を作っては売る日々だ。
開発や設計の時間を考えると、本当に寝る暇もない。
……ところがどっこい、これがまったく辛くなかった。
とにかく24時間365日、どっぷりと錬金術に触れていたい私にはピッタリの生活だ。
オタクの熱量は決して冷めることはなく、むしろ年々熱くなっていた。
「聞いているのか、フルオラ!」
「聞いているの、お義姉様!」
せっかく哀愁に浸りながら新しい魔道具の設計を考えていたのに、謎のがなり声に思考を邪魔された。
さっきから誰よ、もう~。
妄想に浸らせてちょうだいな。
鬱々とした気持ちで振り返ると、一組の男女がいた。
「思った通り、お前は聞こえないフリをしていたのだな! 今回もまた、俺様の見立ては間違っていなかったのだ!」
「お義姉様にはもったいないお方ですわ! アタクシがもらい受けます! オホホホホッ!」
高笑いする男と女。
……誰だ?
いや、メルキュール家に出入りしているのだから、私の知り合いには違いない。
だが、思い出せない。
それにしても、どこかで見たことがあったような……。
「あっ、ナルヒン様にペルビア」
深海に沈んでいた記憶をサルベージする。
前世から私には、興味のないことや嫌なことは記憶の深海へ沈める悪癖があった。
悪癖は死んでも治らなかったようで、むしろ新しい人生では強化された始末だ。
被害に遭われた方々には申し訳ないけど、どうかわかってほしい。
とある理由により、錬金術のためなるべく脳の容量を確保しておきたいのだ。
「まったく、相変わらずの鈍さだな。お前ほど鈍い女は他にいないだろうよ。俺様に話してもらえるだけ感謝しろ」
男性の名は、ナルヒン・クロートザック。
今年で18才。
伯爵家の嫡男であらせられる。
金色のとげとげした髪をお持ちで、ブルーの目は睨むような目つきを意識されているようだ。
狼や熊といった肉食動物のイメージ。
会うたびに爵位の違いや家の自慢話を懇々と説明され、おまけに毎回私のことを馬鹿にしてくるので、五回目に会ったとき彼は深海へ沈んだ。
「どんくさいお義姉様は、あたくしたちの関係にも気付かなかったようですわね。錬金術の本ばかり読んで、現実が見えてなかったんじゃないかしら?」
少女の名は、ペルビア・メルキュール。
私の義妹、14歳。
金色のグラデーションに輝く縦ロールは、私に無理やり作らせた魔道具によるものだ。
右目は紫、左目は黄色のオッドアイ。
これもまた、私に無理やり作らせた魔道具によるものだ。
目の色を変える魔道具を作れ、という無茶な指令の元、私は特別なコンタクトレンズを開発した。
どうやらペルビアは、出会ったときから私そのものを魔道具と思っているらしい。
態度の改善は認められず、初対面から半年後に彼女は深海に沈んだ。
「この俺様もお前がここまで鈍いとは思わなかったぜ! ヒャハハハハッ!」
「お義姉様の泣き顔が目に浮かんでしまいますわ! オホホホホッ!」
なぜか二人は、そろってしきりに高笑いする。
思い返せば、8歳でナルヒン様との婚約が決まってからだ。
私の悪癖が強化されたのは。
男爵令嬢に転生したのがわかってから、なんとなく“婚約”の存在は頭にあった。
この世界では既婚女性は家庭に尽くすのが一般的なことらしく、それもまた憂鬱さに拍車をかけた。
ああ、とうとう来たかぁ~……それが当時の率直な感想だった。
すでに錬金術の沼に浸かっていた私は、婚約など考えたくもなかったのだ。
――正直に言っちゃうと、ずっと引きこもっていたい。
永遠に死ぬまで錬金術をして、魔道具の開発をしていたい。
できれば、結婚はご遠慮したい。
一生夫や義実家のために尽くしていては、せっかくの錬金術ができないから。
でも、私は現実を受け止めた。
――“どんなことも、悪いところより良いところを見つける”。
前世から続く私の考え方だ。
短所や欠点ばかり気にしていてもしょうがない。
だから、16歳までは夢の錬金術に好きなだけ没頭できると逆に考え、日々精進を重ねていた。
寝る間を惜しんで錬金術に打ち込んだ。
しかし……全然足りない。
家出しようかな、ともちょっとばかし思ったのは事実。
とりあえず、彼らの用件を聞こう。
「それで、何用でございましょうか?」
二人は高笑いするばかりで用件を話してくれない。
ので、聞いたわけだけど、彼女らはピタッと動きを止めた。
な、なんだ?
と、思いきや、次の瞬間には竜の咆哮みたいな怒号が襲い掛かってきた。
「婚約破棄だ! っつってんだろ!」
「あたくしがあんたの代わりに結婚するって言ってんの!」
「うわぁっ!」
質問しただけなのに激しく怒鳴られた。
この二人に限っては、良いところを探すのは至難の技だ。
……あっ、ちょっと待って。
彼女らはとても大事なことを言っていたような……。
「……婚約破棄? ペルビアと結婚……?」
「ああ、そうだよ。俺様はお前との婚約を破棄するって言ってるだろうが」
「お義姉様は婚約者をあたくしに奪われてしまったということですわ」
それはつまり……。
「え、ペルビアが代わってくれるの!? ……ごっほん! あ、あ~、これは誠に遺憾ですな。そう、誠に遺憾でございます」
嬉しさを押し殺して悲しいふりをする。
まさか……まさか……! ペルビアが憂鬱な婚約を引き受けてくれるなんて!
……さすがは我が義妹。
素晴らしい活躍だ。
心の中でウキウキしていたら、ペルビアがニヤリと笑って言った。
「ところで、お義姉様は“地底辺境伯”のことをご存知ですか?」
「ええ、もちろん」
地底辺境伯――アース・グラウンド様。
王国で一番大きな山、シャドウ山の地下に住んでいる辺境伯閣下のことだ。
暗黒地底と呼ばれる、とてもとても大きな洞窟の警護を担っている。
地底には魔物の巣と繋がる道があったり、冥界への入り口があるなんて話もあった。
耳慣れない場所なこともあるためか、薄気味悪いウワサしか入ってこない。
身の毛もよだつような怪物……魔物を主食にしている……人だって食べる……。
どれも証拠のない馬鹿馬鹿しいウワサ話だ。
「使い道のないお義姉様は、地底辺境伯との婚約が決まりましたわ。ちょうど嫁入りの募集があったので、あたくしが応募しておきましたの。さきほど了承の書類が届きましたわ」
「……えぇ」
得意げに告げられたセリフに、思わず素の声が出た。
なぜ、私なんかが地底辺境伯に嫁入りを。
謎だ。
というか、せっかく婚約から逃れられたのにぃ……。
一婚約去ってまた一婚約。
なんでこう、私に付きまとうのだ。
ほっといてくれたまえよ。
ん? ちょっと待って。
暗黒地底は人の世から隔絶された地中の洞窟と聞く。
つまり……。
――……引きこもれるぞ。
人里離れた地下空間。
超絶インドアなオタク気質の私にはピッタリじゃないか。
思う存分、錬金術に没頭できそう。
途端にワクワクしてきたけど、悟られないよう懸命に誤魔化す。
「こほんっ。しかし、メルキュール家の魔道具製作はどうするので?」
「ご心配なく。あたくしがお義姉様の代わりを務めますわ」
「お前は完全な用無しとなったわけだ、愚か者め」
なんだ、ペルビアは錬金術に興味があったのか。
ふむ、私に色んな魔道具を作らせたのも、錬金術の勉強がしたかったから……というわけ。
だったら最初からそう言えばいいのに。
まったく可愛い妹め。
「お義父様たちもあたくしたちの婚約に賛成ですから」
「俺様の家もだ。お前に反論なんてできないぜ」
「ふーん」
よくわからないけど、ペルビアの結婚に父や義母、クロードザック家は賛成しているらしい。
いいじゃん!
風向きが変わらないうちにさっさと逃げよう。
光速で荷物をまとめ、ブンブンッ! と手を振りメルキュール家を後にする。
「さよーならー! お元気でー!」
「あ、ああ、二度と帰ってくるなよ……」
「た、助けを求めに来ても知りませんからね……」
なぜか元気がない二人に見送られ、街に走って馬車を確保。
地底辺境伯がどういう方かはわからないけど、たぶんどうにかなると思う。
この婚約だって、何かの間違いだろう。
そもそも、私は先のことをあまり深く悩まない。
結果死んだわけだけど。
自分の無鉄砲さに少しばかり辟易したところで、顔をパンッ! と叩いて気合を入れる。
――そんなことより、せっかく来た引きこもりライフのチャンスなのだ。
絶対、掴み取ってみせる。
馬車に揺られながら、強く強く決心した。
「お義姉様! さっさと、この家から出て行ってくださる!? あんたの居場所はもうないのよ!」
頭の片隅に男女の声が聞こえるけど、きっと気のせいだろう。
ここビノザンド王国の地方にあるメルキュール家で、私は今日も錬金魔道具の開発に勤しむ。
自宅の隅っこにある狭い自室が、私の居場所兼開発室だ。
昔から……というより、前世から錬金術に強い関心があった。
極度の錬金術オタだったJK二年の私は、自分でアホな実験をした挙句事故死した。
だけど、錬金術を使いたいという熱量溢れる思いが神に通じたのか、フルオラ・メルキュールという少女として転生したのだ。
3歳の時に前世の記憶を思い出し、この世界に本物の錬金術があると知ったときは感動で震えたね。
あれから13年経ち、前世の自分が死んだ年齢になった。
毎日毎日没頭しても錬金術にはまったく飽きない。
飽きるどころか、夢にまで見た錬金術が使えるのが最高すぎて仕方がない。
窓を開けしみじみと外を見た。
空を飛ぶ雲のように、無限のアイデアが湧いてくる……。
「ククク、聞こえないフリをしているんだろう。お前はどこまでも性格の悪い女だ」
「それとも悔しくって、こちらを見ることもできないのかしら?」
メルキュール家は男爵家だったけど、弱小 of 弱小貴族なのでお金がなかった。
だから、生計を助けるため錬金術で魔道具を作っては売る日々だ。
開発や設計の時間を考えると、本当に寝る暇もない。
……ところがどっこい、これがまったく辛くなかった。
とにかく24時間365日、どっぷりと錬金術に触れていたい私にはピッタリの生活だ。
オタクの熱量は決して冷めることはなく、むしろ年々熱くなっていた。
「聞いているのか、フルオラ!」
「聞いているの、お義姉様!」
せっかく哀愁に浸りながら新しい魔道具の設計を考えていたのに、謎のがなり声に思考を邪魔された。
さっきから誰よ、もう~。
妄想に浸らせてちょうだいな。
鬱々とした気持ちで振り返ると、一組の男女がいた。
「思った通り、お前は聞こえないフリをしていたのだな! 今回もまた、俺様の見立ては間違っていなかったのだ!」
「お義姉様にはもったいないお方ですわ! アタクシがもらい受けます! オホホホホッ!」
高笑いする男と女。
……誰だ?
いや、メルキュール家に出入りしているのだから、私の知り合いには違いない。
だが、思い出せない。
それにしても、どこかで見たことがあったような……。
「あっ、ナルヒン様にペルビア」
深海に沈んでいた記憶をサルベージする。
前世から私には、興味のないことや嫌なことは記憶の深海へ沈める悪癖があった。
悪癖は死んでも治らなかったようで、むしろ新しい人生では強化された始末だ。
被害に遭われた方々には申し訳ないけど、どうかわかってほしい。
とある理由により、錬金術のためなるべく脳の容量を確保しておきたいのだ。
「まったく、相変わらずの鈍さだな。お前ほど鈍い女は他にいないだろうよ。俺様に話してもらえるだけ感謝しろ」
男性の名は、ナルヒン・クロートザック。
今年で18才。
伯爵家の嫡男であらせられる。
金色のとげとげした髪をお持ちで、ブルーの目は睨むような目つきを意識されているようだ。
狼や熊といった肉食動物のイメージ。
会うたびに爵位の違いや家の自慢話を懇々と説明され、おまけに毎回私のことを馬鹿にしてくるので、五回目に会ったとき彼は深海へ沈んだ。
「どんくさいお義姉様は、あたくしたちの関係にも気付かなかったようですわね。錬金術の本ばかり読んで、現実が見えてなかったんじゃないかしら?」
少女の名は、ペルビア・メルキュール。
私の義妹、14歳。
金色のグラデーションに輝く縦ロールは、私に無理やり作らせた魔道具によるものだ。
右目は紫、左目は黄色のオッドアイ。
これもまた、私に無理やり作らせた魔道具によるものだ。
目の色を変える魔道具を作れ、という無茶な指令の元、私は特別なコンタクトレンズを開発した。
どうやらペルビアは、出会ったときから私そのものを魔道具と思っているらしい。
態度の改善は認められず、初対面から半年後に彼女は深海に沈んだ。
「この俺様もお前がここまで鈍いとは思わなかったぜ! ヒャハハハハッ!」
「お義姉様の泣き顔が目に浮かんでしまいますわ! オホホホホッ!」
なぜか二人は、そろってしきりに高笑いする。
思い返せば、8歳でナルヒン様との婚約が決まってからだ。
私の悪癖が強化されたのは。
男爵令嬢に転生したのがわかってから、なんとなく“婚約”の存在は頭にあった。
この世界では既婚女性は家庭に尽くすのが一般的なことらしく、それもまた憂鬱さに拍車をかけた。
ああ、とうとう来たかぁ~……それが当時の率直な感想だった。
すでに錬金術の沼に浸かっていた私は、婚約など考えたくもなかったのだ。
――正直に言っちゃうと、ずっと引きこもっていたい。
永遠に死ぬまで錬金術をして、魔道具の開発をしていたい。
できれば、結婚はご遠慮したい。
一生夫や義実家のために尽くしていては、せっかくの錬金術ができないから。
でも、私は現実を受け止めた。
――“どんなことも、悪いところより良いところを見つける”。
前世から続く私の考え方だ。
短所や欠点ばかり気にしていてもしょうがない。
だから、16歳までは夢の錬金術に好きなだけ没頭できると逆に考え、日々精進を重ねていた。
寝る間を惜しんで錬金術に打ち込んだ。
しかし……全然足りない。
家出しようかな、ともちょっとばかし思ったのは事実。
とりあえず、彼らの用件を聞こう。
「それで、何用でございましょうか?」
二人は高笑いするばかりで用件を話してくれない。
ので、聞いたわけだけど、彼女らはピタッと動きを止めた。
な、なんだ?
と、思いきや、次の瞬間には竜の咆哮みたいな怒号が襲い掛かってきた。
「婚約破棄だ! っつってんだろ!」
「あたくしがあんたの代わりに結婚するって言ってんの!」
「うわぁっ!」
質問しただけなのに激しく怒鳴られた。
この二人に限っては、良いところを探すのは至難の技だ。
……あっ、ちょっと待って。
彼女らはとても大事なことを言っていたような……。
「……婚約破棄? ペルビアと結婚……?」
「ああ、そうだよ。俺様はお前との婚約を破棄するって言ってるだろうが」
「お義姉様は婚約者をあたくしに奪われてしまったということですわ」
それはつまり……。
「え、ペルビアが代わってくれるの!? ……ごっほん! あ、あ~、これは誠に遺憾ですな。そう、誠に遺憾でございます」
嬉しさを押し殺して悲しいふりをする。
まさか……まさか……! ペルビアが憂鬱な婚約を引き受けてくれるなんて!
……さすがは我が義妹。
素晴らしい活躍だ。
心の中でウキウキしていたら、ペルビアがニヤリと笑って言った。
「ところで、お義姉様は“地底辺境伯”のことをご存知ですか?」
「ええ、もちろん」
地底辺境伯――アース・グラウンド様。
王国で一番大きな山、シャドウ山の地下に住んでいる辺境伯閣下のことだ。
暗黒地底と呼ばれる、とてもとても大きな洞窟の警護を担っている。
地底には魔物の巣と繋がる道があったり、冥界への入り口があるなんて話もあった。
耳慣れない場所なこともあるためか、薄気味悪いウワサしか入ってこない。
身の毛もよだつような怪物……魔物を主食にしている……人だって食べる……。
どれも証拠のない馬鹿馬鹿しいウワサ話だ。
「使い道のないお義姉様は、地底辺境伯との婚約が決まりましたわ。ちょうど嫁入りの募集があったので、あたくしが応募しておきましたの。さきほど了承の書類が届きましたわ」
「……えぇ」
得意げに告げられたセリフに、思わず素の声が出た。
なぜ、私なんかが地底辺境伯に嫁入りを。
謎だ。
というか、せっかく婚約から逃れられたのにぃ……。
一婚約去ってまた一婚約。
なんでこう、私に付きまとうのだ。
ほっといてくれたまえよ。
ん? ちょっと待って。
暗黒地底は人の世から隔絶された地中の洞窟と聞く。
つまり……。
――……引きこもれるぞ。
人里離れた地下空間。
超絶インドアなオタク気質の私にはピッタリじゃないか。
思う存分、錬金術に没頭できそう。
途端にワクワクしてきたけど、悟られないよう懸命に誤魔化す。
「こほんっ。しかし、メルキュール家の魔道具製作はどうするので?」
「ご心配なく。あたくしがお義姉様の代わりを務めますわ」
「お前は完全な用無しとなったわけだ、愚か者め」
なんだ、ペルビアは錬金術に興味があったのか。
ふむ、私に色んな魔道具を作らせたのも、錬金術の勉強がしたかったから……というわけ。
だったら最初からそう言えばいいのに。
まったく可愛い妹め。
「お義父様たちもあたくしたちの婚約に賛成ですから」
「俺様の家もだ。お前に反論なんてできないぜ」
「ふーん」
よくわからないけど、ペルビアの結婚に父や義母、クロードザック家は賛成しているらしい。
いいじゃん!
風向きが変わらないうちにさっさと逃げよう。
光速で荷物をまとめ、ブンブンッ! と手を振りメルキュール家を後にする。
「さよーならー! お元気でー!」
「あ、ああ、二度と帰ってくるなよ……」
「た、助けを求めに来ても知りませんからね……」
なぜか元気がない二人に見送られ、街に走って馬車を確保。
地底辺境伯がどういう方かはわからないけど、たぶんどうにかなると思う。
この婚約だって、何かの間違いだろう。
そもそも、私は先のことをあまり深く悩まない。
結果死んだわけだけど。
自分の無鉄砲さに少しばかり辟易したところで、顔をパンッ! と叩いて気合を入れる。
――そんなことより、せっかく来た引きこもりライフのチャンスなのだ。
絶対、掴み取ってみせる。
馬車に揺られながら、強く強く決心した。
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