婚約破棄された錬金術師ですが、暗黒地底に放り出されたら冷徹な辺境伯様との楽しい毎日が始まりました
第20話:古い友人
「マチルダか、ずいぶんと久しぶりだな。その調子だと元気そうじゃないか」
「偉そうにするんじゃないよ、アー坊。この前までこんな小っこかった男がね。ヒッヒッヒッヒッヒッ」
マチルダさんは鮮やかな紫の髪と、同じく紫の瞳が上品な印象だ。
ザ・魔女! みたいな帽子とローブが魔女っぽい。
ヒッヒッヒッという老女を思わせる笑い方だけど、背筋はスラッと伸びた四十歳くらいの綺麗な女性だった。
アース様は振り向くと私に紹介してくれた。
「フルオラ、この女性はマチルダという。見ての通り魔女だ。亡き母の古い友人で、たまにこうして地底を訪れては自慢話をする」
「概ね間違ってないけど、"今世紀最大の”がついてないよ」
「……”今世紀最大の”魔女だ」
アース様はため息交じりに話すも、マチルダさんは嬉しそうだった。
私も自己紹介する。
「フルオラ、メルキュールです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。あんたの噂は知ってるよ。何でも、凄腕の錬金術師だそうじゃないか。劣悪な暗黒地底の環境を変えたって話は本当だったね。この空も涼しい空気も明るさ魔導具なんだろ? こりゃすごいよ」
マチルダさんは感心した様子で天井や壁を見る。
驚きはするものの激しく驚かないところに、魔女としての経験値みたいなものを感じた。
魔導具を褒められて嬉しいけど、それはやっぱり上質な素材があってこそだ。
「ありがとうございます、マチルダさん。でも、地底にある素材が上等だったからだと思います」
「いやいや、錬金術師の腕が良くないと素材の良さは活かせないものさ。世の中はあんたの話で持ちきりだよ」
「え、そうなんですか?」
まさか、そんな。
私の噂が流れているなんて。
光栄だし嬉しい反面恥ずかしいね。
前世では絶対に体験できないことで……って、ちょっと待って。
喜んだのもつかの間、とある素朴だけど重要な疑問が浮かぶ。
――……悪癖についてはどうなんだろう。
そうだよ。
むしろそっちの方が心配だ。
私の知らないところで悪癖が暴発していたらどうしよう。
……居ても立っても居られなくなり、勇気を出してマチルダさんに聞いてみることにした。
「あの、マチルダさん。私のあくへ……」
「フルオラ。せっかくだから、ルオ君も見せてやったらどうだ? 自律型ゴーレムなんてマチルダも見たことがないだろう」
問い合わせようとしたとき、アース様がおっしゃった。
マチルダさんも興奮した様子となられる。
「自律型のゴーレムだって? ぜひ、見せてほしいさね」
とのことなので、悪癖の噂についてはまた今度尋ねることにした。
知らない方がいい事案かもしれないしね。
「ルオちゃん、おいで~」
お屋敷に呼びかけると、すぐにルオちゃんが出てきた。
本を読むのが好きみたいで、だいたい図書館にいることが多いのだ。
お屋敷の天井は我々サイズなので、そのうち拡張したいね、とアース様やクリステンさんと相談していた。
『……ママ、ルオちゃん参上。見知らぬ来訪者を認識』
「マチルダさん、ご紹介します。この子がゴーレムのルオちゃんです。ルオちゃん、魔女のマチルダさんだよ」
『仲良し所望』
「へぇ~、本当に喋るんだねぇ~! これはすごい魔導具じゃないか!」
マチルダさんは大変興味深そうにルオちゃんを撫で回す。
すごく気に入ったらしく、あれこれと質問していた。
そして、ルオちゃんが来ると、アース様は毎回不機嫌になられる。
今も少し離れたところで地底の壁を睨んでいらっしゃる。
なぜだ……。
もしかして、ゴーレムが苦手なのだろうか。
でも、"錬金博覧会”に出品されたゴーレムを眺めているときは普通だったし……。
あれこれと考えていたら、マチルダさんが唐突に私に言った。
「それで、あんたらはいつ結婚するんだい」
「…………はい?」
いきなり質問され素の声が出てしまった。
ケッコンッテ、ダレトダレガデショウカ。
少し離れていたアース様がずかずかと戻り、私たちの間に入る。
「マチルダ、今すぐ帰りなさい」
「アー坊、そんなんじゃいつまでも独身さね。いいかい? あたしはあんたを母親から預かっているんだから、そろそろ身を固めて……」
アース様はずっと話し続けるマチルダさんから静かに離れ、私の耳元でそっと話す。
「実は……彼女に専属錬金術師の人探しを頼んだのだ。それがどうして婚姻になったのか……」
「そ、そうだったのですか……」
アース様の低くも落ち着いた声が耳をくすぐる。
心地よさと恥ずかしい気持ちで、たどたどしい返答しかできなかった。
マチルダさんは私たちに気づくと、さらにアース様に話す。
「こうでもしないとアー坊はいつまでも独り身だろう。ちょっとは感謝してほしいもんだね。そもそも、あんたは目つきが悪いんだからもう少し……」
くどくどと話し続けるマチルダさんにアース様は疲れた様子だけど、仲の良さが伝わる。
マチルダさんは前世でいうお節介おば……お節介お姉さんみたいな感じなのかな。
「……それで、君の用件はなんだ。まさか、私たちをからかいに来たわけじゃないだろうな」
「相変わらずおっかないね、あんたは。もちろん他にも用事はあるよ。ずっと薬の調合に使っていた鍋が壊れてしまってね。……フルオラに新しい物を作ってほしいんだ」
一転して、マチルダさんは真剣な顔で言う。
彼女の真摯な雰囲気で、私もすぐ錬金術師モードになった。
「はい、魔導具の製作ということですね! 承知しました!」
「あんたの錬金術の腕前を見せとくれ。噂を聞いていたら実際に見たくてしょうがなくなっちまったんだよ」
「任せてください! 良いお鍋を作りますよ!」
ガッツポーズして答える。
アース様の大事なお友達のマチルダさん。
彼女のために最高のお鍋を作るんだ!
「偉そうにするんじゃないよ、アー坊。この前までこんな小っこかった男がね。ヒッヒッヒッヒッヒッ」
マチルダさんは鮮やかな紫の髪と、同じく紫の瞳が上品な印象だ。
ザ・魔女! みたいな帽子とローブが魔女っぽい。
ヒッヒッヒッという老女を思わせる笑い方だけど、背筋はスラッと伸びた四十歳くらいの綺麗な女性だった。
アース様は振り向くと私に紹介してくれた。
「フルオラ、この女性はマチルダという。見ての通り魔女だ。亡き母の古い友人で、たまにこうして地底を訪れては自慢話をする」
「概ね間違ってないけど、"今世紀最大の”がついてないよ」
「……”今世紀最大の”魔女だ」
アース様はため息交じりに話すも、マチルダさんは嬉しそうだった。
私も自己紹介する。
「フルオラ、メルキュールです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。あんたの噂は知ってるよ。何でも、凄腕の錬金術師だそうじゃないか。劣悪な暗黒地底の環境を変えたって話は本当だったね。この空も涼しい空気も明るさ魔導具なんだろ? こりゃすごいよ」
マチルダさんは感心した様子で天井や壁を見る。
驚きはするものの激しく驚かないところに、魔女としての経験値みたいなものを感じた。
魔導具を褒められて嬉しいけど、それはやっぱり上質な素材があってこそだ。
「ありがとうございます、マチルダさん。でも、地底にある素材が上等だったからだと思います」
「いやいや、錬金術師の腕が良くないと素材の良さは活かせないものさ。世の中はあんたの話で持ちきりだよ」
「え、そうなんですか?」
まさか、そんな。
私の噂が流れているなんて。
光栄だし嬉しい反面恥ずかしいね。
前世では絶対に体験できないことで……って、ちょっと待って。
喜んだのもつかの間、とある素朴だけど重要な疑問が浮かぶ。
――……悪癖についてはどうなんだろう。
そうだよ。
むしろそっちの方が心配だ。
私の知らないところで悪癖が暴発していたらどうしよう。
……居ても立っても居られなくなり、勇気を出してマチルダさんに聞いてみることにした。
「あの、マチルダさん。私のあくへ……」
「フルオラ。せっかくだから、ルオ君も見せてやったらどうだ? 自律型ゴーレムなんてマチルダも見たことがないだろう」
問い合わせようとしたとき、アース様がおっしゃった。
マチルダさんも興奮した様子となられる。
「自律型のゴーレムだって? ぜひ、見せてほしいさね」
とのことなので、悪癖の噂についてはまた今度尋ねることにした。
知らない方がいい事案かもしれないしね。
「ルオちゃん、おいで~」
お屋敷に呼びかけると、すぐにルオちゃんが出てきた。
本を読むのが好きみたいで、だいたい図書館にいることが多いのだ。
お屋敷の天井は我々サイズなので、そのうち拡張したいね、とアース様やクリステンさんと相談していた。
『……ママ、ルオちゃん参上。見知らぬ来訪者を認識』
「マチルダさん、ご紹介します。この子がゴーレムのルオちゃんです。ルオちゃん、魔女のマチルダさんだよ」
『仲良し所望』
「へぇ~、本当に喋るんだねぇ~! これはすごい魔導具じゃないか!」
マチルダさんは大変興味深そうにルオちゃんを撫で回す。
すごく気に入ったらしく、あれこれと質問していた。
そして、ルオちゃんが来ると、アース様は毎回不機嫌になられる。
今も少し離れたところで地底の壁を睨んでいらっしゃる。
なぜだ……。
もしかして、ゴーレムが苦手なのだろうか。
でも、"錬金博覧会”に出品されたゴーレムを眺めているときは普通だったし……。
あれこれと考えていたら、マチルダさんが唐突に私に言った。
「それで、あんたらはいつ結婚するんだい」
「…………はい?」
いきなり質問され素の声が出てしまった。
ケッコンッテ、ダレトダレガデショウカ。
少し離れていたアース様がずかずかと戻り、私たちの間に入る。
「マチルダ、今すぐ帰りなさい」
「アー坊、そんなんじゃいつまでも独身さね。いいかい? あたしはあんたを母親から預かっているんだから、そろそろ身を固めて……」
アース様はずっと話し続けるマチルダさんから静かに離れ、私の耳元でそっと話す。
「実は……彼女に専属錬金術師の人探しを頼んだのだ。それがどうして婚姻になったのか……」
「そ、そうだったのですか……」
アース様の低くも落ち着いた声が耳をくすぐる。
心地よさと恥ずかしい気持ちで、たどたどしい返答しかできなかった。
マチルダさんは私たちに気づくと、さらにアース様に話す。
「こうでもしないとアー坊はいつまでも独り身だろう。ちょっとは感謝してほしいもんだね。そもそも、あんたは目つきが悪いんだからもう少し……」
くどくどと話し続けるマチルダさんにアース様は疲れた様子だけど、仲の良さが伝わる。
マチルダさんは前世でいうお節介おば……お節介お姉さんみたいな感じなのかな。
「……それで、君の用件はなんだ。まさか、私たちをからかいに来たわけじゃないだろうな」
「相変わらずおっかないね、あんたは。もちろん他にも用事はあるよ。ずっと薬の調合に使っていた鍋が壊れてしまってね。……フルオラに新しい物を作ってほしいんだ」
一転して、マチルダさんは真剣な顔で言う。
彼女の真摯な雰囲気で、私もすぐ錬金術師モードになった。
「はい、魔導具の製作ということですね! 承知しました!」
「あんたの錬金術の腕前を見せとくれ。噂を聞いていたら実際に見たくてしょうがなくなっちまったんだよ」
「任せてください! 良いお鍋を作りますよ!」
ガッツポーズして答える。
アース様の大事なお友達のマチルダさん。
彼女のために最高のお鍋を作るんだ!