婚約破棄された錬金術師ですが、暗黒地底に放り出されたら冷徹な辺境伯様との楽しい毎日が始まりました
第36話:地底にて
「お、おはよう、フルオラ」
「お、おはようございます、アース様」
朝、食堂に来てアース様とぎこちなく挨拶を交わす。
宮殿から帰って、もう三日ほど過ぎた。
地底での日常が戻り始めたけど、なぜかアース様と接するたびぎこちなくなってしまう。
いたって普通のことなのに……。
クリステンさんがにまにましながら、静かに料理を運んでくれる。
いつもはアース様がすぐ注意するけど、今日は気づいていないのかそのままだった。
「そ、その……どうだ、調子は?」
「じょ、上々です。アース様はいかがでしょうか」
「じょ、上々だ」
二人して上々だと言ったところで、テーブルに朝ご飯が並べられた。
可愛いクロワッサンに温かい温野菜……。
ぎくしゃくとしていたら、クリステンさんを手伝うのを忘れてしまった。
「で、では、いただこうか」
「い、いただきます」
みんなで一緒にご飯を食べる。
座席に座るのは、アース様と私、クリステンさんにワーキンさんのいつもの面々だ。
テーブルを静寂が包む。
特にワーキンさんは大きな声で話しながら食べるのに、やけに静かなのはなぜだろう。
粛々と食べていたら、突然、クリステンさんが言った。
「姉から聞きましたが、お二人は激しく抱き合ったそうですね」
「「えっ!」」
私はクロワッサンを、アース様は人参をぽろりとお皿に落とす。
宮殿での一件はかいつまんで話したけど、アース様と相談した結果、抱擁の展開は内緒にしておくことになった。
……恥ずかしいから。
なので、カリステンさん経由で伝わったのは確かだろう。
ず、ずいぶんと早い手紙だ。
「ク、クリステンッ、いきなり何を言い出すんだ……っ」
「そ、そうですよっ。激しく抱き合うだなんて、そんなことは……っ」
「宮廷画家が描いたとされる絵も、姉が一緒に送ってくださいました。私もその場にいたかったですね」
「「えっ!」」
抱擁の瞬間の……絵?
いつの間に描かれていたの……。
しかも、宮廷画家なんて、大変に絵がうまい人に決まっている。
願わくば、写実的ではなく抽象的であってほしい。
どちらにせよ、どんな絵なのか怖くて聞けなかった。
気を取り直して、私とアース様は食事を再開する。
ご飯を口に運ぼうとしたとき、今度はワーキンさんが大きな声を出した。
「それで、お前らはいつ結婚するんだ!」
「「えっ!」」
私は人参を、アース様はクロワッサンをぽろりとお皿に落とす。
呆然とする私たちを置き去りにして、ワーキンさんは大声で話し続ける。
「ここまで来たら、あとは結婚しかないだろうが!」
「ワ、ワーキンッ、食事中は静かにしなさいっ」
「そ、そうですよっ、食事中は静かにしないとっ」
「二人だって騒がしいじゃねえか!」
一波乱あった朝食もとりあえず終わり、クリステンさんが紅茶を出してくれた(またもや、ぎくしゃくして忘れてしまった)。
何はともあれ、紅茶を飲むと落ち着くね。
アース様もこくりと飲むと、そっとカップを置いて言った。
「さて、フルオラ。さっそくだが、仕事の依頼をしてもいいか?」
「もちろんでございます」
真面目な雰囲気に変わったからか、クリステンさんやワーキンさんも静かになる。
アース様はひときわ真剣な顔になると、正面から私の目を見て話す。
「"大穴"を……塞いでほしい。大変な仕事になるだろうが、ぜひ君にやり遂げてもらいたいんだ」
王立図書館で調べた結果、錬金術の理論は無事に構築できた。
素材だって地底にある物で問題ない。
深呼吸すると、ひと息にお答えした。
「はい……承知いたしました」
自然と拳を硬く握っている。
いよいよ、暗黒地底で一番の大仕事、"大穴"を塞ぐ日がやってきた。
「お、おはようございます、アース様」
朝、食堂に来てアース様とぎこちなく挨拶を交わす。
宮殿から帰って、もう三日ほど過ぎた。
地底での日常が戻り始めたけど、なぜかアース様と接するたびぎこちなくなってしまう。
いたって普通のことなのに……。
クリステンさんがにまにましながら、静かに料理を運んでくれる。
いつもはアース様がすぐ注意するけど、今日は気づいていないのかそのままだった。
「そ、その……どうだ、調子は?」
「じょ、上々です。アース様はいかがでしょうか」
「じょ、上々だ」
二人して上々だと言ったところで、テーブルに朝ご飯が並べられた。
可愛いクロワッサンに温かい温野菜……。
ぎくしゃくとしていたら、クリステンさんを手伝うのを忘れてしまった。
「で、では、いただこうか」
「い、いただきます」
みんなで一緒にご飯を食べる。
座席に座るのは、アース様と私、クリステンさんにワーキンさんのいつもの面々だ。
テーブルを静寂が包む。
特にワーキンさんは大きな声で話しながら食べるのに、やけに静かなのはなぜだろう。
粛々と食べていたら、突然、クリステンさんが言った。
「姉から聞きましたが、お二人は激しく抱き合ったそうですね」
「「えっ!」」
私はクロワッサンを、アース様は人参をぽろりとお皿に落とす。
宮殿での一件はかいつまんで話したけど、アース様と相談した結果、抱擁の展開は内緒にしておくことになった。
……恥ずかしいから。
なので、カリステンさん経由で伝わったのは確かだろう。
ず、ずいぶんと早い手紙だ。
「ク、クリステンッ、いきなり何を言い出すんだ……っ」
「そ、そうですよっ。激しく抱き合うだなんて、そんなことは……っ」
「宮廷画家が描いたとされる絵も、姉が一緒に送ってくださいました。私もその場にいたかったですね」
「「えっ!」」
抱擁の瞬間の……絵?
いつの間に描かれていたの……。
しかも、宮廷画家なんて、大変に絵がうまい人に決まっている。
願わくば、写実的ではなく抽象的であってほしい。
どちらにせよ、どんな絵なのか怖くて聞けなかった。
気を取り直して、私とアース様は食事を再開する。
ご飯を口に運ぼうとしたとき、今度はワーキンさんが大きな声を出した。
「それで、お前らはいつ結婚するんだ!」
「「えっ!」」
私は人参を、アース様はクロワッサンをぽろりとお皿に落とす。
呆然とする私たちを置き去りにして、ワーキンさんは大声で話し続ける。
「ここまで来たら、あとは結婚しかないだろうが!」
「ワ、ワーキンッ、食事中は静かにしなさいっ」
「そ、そうですよっ、食事中は静かにしないとっ」
「二人だって騒がしいじゃねえか!」
一波乱あった朝食もとりあえず終わり、クリステンさんが紅茶を出してくれた(またもや、ぎくしゃくして忘れてしまった)。
何はともあれ、紅茶を飲むと落ち着くね。
アース様もこくりと飲むと、そっとカップを置いて言った。
「さて、フルオラ。さっそくだが、仕事の依頼をしてもいいか?」
「もちろんでございます」
真面目な雰囲気に変わったからか、クリステンさんやワーキンさんも静かになる。
アース様はひときわ真剣な顔になると、正面から私の目を見て話す。
「"大穴"を……塞いでほしい。大変な仕事になるだろうが、ぜひ君にやり遂げてもらいたいんだ」
王立図書館で調べた結果、錬金術の理論は無事に構築できた。
素材だって地底にある物で問題ない。
深呼吸すると、ひと息にお答えした。
「はい……承知いたしました」
自然と拳を硬く握っている。
いよいよ、暗黒地底で一番の大仕事、"大穴"を塞ぐ日がやってきた。