婚約破棄された錬金術師ですが、暗黒地底に放り出されたら冷徹な辺境伯様との楽しい毎日が始まりました

最終話:私の人生は……

「フルオラ……綺麗だ」
 アース様の声がロビーに静かに響く。
 綺麗と言われ、嬉しさで胸がパッと明るくなった。
 恥ずかしかったけど、頑張って目を逸らさずにお伝えした。 
「アース様こそ……大変にかっこいいです。……王子様かと思いました」
「そうか、ありがとう」
 アース様はフフッと嬉しそうに笑う。
 少々大仰だけど、正直な気持ちだった。
 だって……本当にかっこいいから。
「さあ、行こうか。フルオラ」
「ええ、アース様」
 そっと差し出された手を握り、一緒にロビーを歩く。
 玄関の前に立つとひとりでに開かれ、眩い陽光と突き抜けるような青空が目に飛び込んだ。 地底の前に広がる草原には真っ白なクロスをかけられたテーブルがいくつも置かれ、豪華なお料理と綺麗なお花で飾り付けられている。
 そして、周囲には……。
「「お二人とも……おめでとうございま~す!」」
 何人もの人が拍手で迎えてくれた。
 こんなにたくさんの人がいるのは、暗黒地底に来てから初めて見る。
 みんな笑顔でカチッとした正装を着る。
 かくいう私も、真っ白のドレスに包まれていた。
 隣のアース様も純白のジャケットが美しく輝く。
 今日は……私たちの結婚式だから。
 クリステンさんとカリステンさんが、ドレスの裾を持ってくれた。
「フルオラ様、辺境伯様。お二人とも大変お美しくございます」
「私もこのような機会にお呼びいただきありがとうございます。お二人の人生で一番大事な日に立ち会えたこと、感謝申し上げます」
 私とアース様の前には、タキシードを着たルオちゃんが静々と現れる。
 大きなタキシードはクリステンさんが作ってくれたそうだ。
『ルオちゃん……案内する。本日は祝賀なり』
 ルオちゃんが先導してくれ、一番奥に設置された祭壇に向かう。
 三人にお礼を言いながら、私とアース様は式場を歩く。
 右や左から、お祝いの言葉が明るく降りかかる。
『アースもフルオラもおめでとう! お前たちが結ばれて俺も本当に嬉しい!』
『おめでとうございます。二人ほどお似合いのカップルは他にはいませんよ』
 ワーキンさんとルーブさんは、首だけ赤い蝶ネクタイをつけていた。
 これもまたクリステンさんが作ってくれたそうだ。
『ああ~、今日はなんて幸せな日ラビか~! どうして前が見えないラビッ! うっうっ……!』
「あんたらならこの先もうまくやっていけるよ! なぜ前が見えないんだろうね! うっうっ……!」
『お前たち二人は地底を代表するカップルだ! なんで前が見えないんだよ! うっうっ……!』
 顔が涙でぐしゃぐしゃになっているのは、ビトラさんとマチルダさん、そしてワーキンさん。
 暗黒地底を訪れたお客さん以外にも、"錬金博覧会"で知り合った錬金術師たち、宮殿の衛兵など、たくさんの人が集まってくれた。
 皆さんに祝福される中、ルオちゃんの先導で祭壇まで歩く。
 祭壇の前には……なんと、王様がいらっしゃった。
「二人とも本当にお似合いの夫婦じゃな。グラウンド卿、フルオラ嬢、今日は本当におめでとう」
「「ありがとうございます、国王陛下」」
 王様の前に立ち、祈りのお言葉を聞く。
 お祈りが終わったところで、互いに指輪を交換した。
 アース様に指輪をはめてもらい、私もアース様の指にはめる。
 スッと指に馴染むダイヤのリングを見て、じわじわと喜びがあふれた。

 ――夫婦に……なれたんだ……。
 
 アース様を見ると、優しく微笑んでくれた。
 王様が静かに告げる。
「……それでは、両者近いのキスを」
 私とアース様は向かい合う。
 キ、キス……。
 ドキドキしていたら、アース様が静かに尋ねた。
「フルオラ、新婚旅行はどこに行きたい?」
 そう言われ、しばし考える。
 ……新婚旅行か。
 私には縁がない言葉だと思っていたけど、なんだか不思議だね。
 インドアではあるけれど、もちろんのことぜひ行きたい。
 行き先はというと、少し考えたらとてもよい場所が思いついた。
 それは……。
「珍しい素材のあるところがいいです」
「……君は相変わらずだな」
 どこか呆れたような、でも優しい笑みを浮かべ、アース様は静かに私の目を見る。
 どちらともなく目を閉じて、チュッと唇が触れあった。
 今までにないくらいの嬉しさがあふれるのを感じたとき、頭の中にいつも大事にしていた"あの言葉”が思い浮かんだ。
 “どんなことも、悪いところより良いところを見つける”。

 ――私の人生は…………良いところばっかりだ!
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