婚約破棄された錬金術師ですが、暗黒地底に放り出されたら冷徹な辺境伯様との楽しい毎日が始まりました
第9話:行商人さん
「では、フルオラ、クリステン。私は地底の探索と警備に行ってくる」
「「いってらっしゃいませ、アース様(辺境伯様)」」
翌朝、お屋敷から出たアース様をクリステンさんと一緒に見送る。
暗黒地底に来てから、私の大事な日課となっていた。
アース様は数歩歩くと立ち止まり、天井を見上げる。
「……今日は晴れか。この調子だと夜まで晴れていそうだな」
「ええ、風も弱いみたいですし、雨は降りそうにありませんね」
天井には青空が広がり、白い雲がぽんぽんと浮かぶ。
雲はゆったりのんびり動いているから、今日はずっと晴天が続くのかな……と思った。
「まさか、暗黒地底で天気の話ができる日がくるとは思わなかった」
「S級メイドとしましても多分に幸せでございます」
《天候照射機》も問題なく作動している。
洞窟内も最初訪れたときとはだいぶ様変わりして、一段と明るくなっていた。
いつの間にか、ほら穴の壁にはいくつもの《照らしライト:浮遊型》が灯されている。
昨夜のうちにクリステンさんがあらかた配置してしまったようだ。
ちなみに、私は爆睡していたので手伝っていない。
手伝えなくてすみませんと言ったら、S級メイドとして当然のことをしたまでです、と返されてしまった。
アース様は満足気な様子で洞窟を見渡す。
「暗黒地底という呼び名が変わるのもそう遠くないだろう。身体も涼しいし、毎日の探索が楽しみだ。昼頃には一度戻ってくるつもりだ。《照らしライト》もいくつか持っていくか」
「まだまだ量産できますので、足りなくなったらいつでもお申し付けください」
「お気をつけていってらっしゃいませ、グラウンド様」
アース様は足取り軽く地底へ進み、その後を《照らしライト:浮遊型》がふわふわと追う。
より効率的に錬成できるよう、各魔道具の錬成陣の改良も進める予定だ。
「それでは、フルオラ様。私は洞窟内の掃除を行いますが、お屋敷に戻りますか?」
「はい。今日は地熱調査の準備を進めようと思います」
私たちは《ミニエアコン》があるから涼しいけど、いずれは洞窟内全体の暑さも改善したい。
小さな魔道具といっても、ずっと首から下げていると疲れるからね。
何より、どうしてこんなに暑いのか、地熱だとしたら何かしら有効活用できるんじゃないか……という好奇心を満たしたかった。
クリステンさんと別れ、お屋敷に入ろうとしたときだ。
甲高い女性の声が私たちの耳に入った。
『あああ~、今日も暑いラビね~! って、どうしてこんなに明るいラビかぁ!? ここは地獄の代名詞と言われる暗黒地底ラビよねぇ!?』
暗黒地底の入り口から聞こえる。
こんな経験、ここに来て初めてのことだ。
緊張しながらクリステンさんに尋ねる。
「ク、クリステンさん、何か声が聞こえますよ? お屋敷にいらっしゃる方ですか? そ、それとも魔物じゃ……?」
「落ち着いてくださいませ、フルオラ様。あちらにいらっしゃるのは、行商人のビトラ様でございます」
「……え? 行商人?」
クリステンさんの返答を待つ間もなく、声の主はこちらに近づいてきた。
だんだん顔や風体が明らかになる。
私の半分くらいの身長に、白くて長い髪の毛、赤くて丸い目、背中には旅人のような大きなリュック、そして最も印象的なのは……頭の上から生えた長くて丸っこい耳。
行商人さんは兎人族だった。
珍しい……。
文献で絵を見たことはあるけど、実際には初めて会った。
行商人さんは私たちを見ると、笑顔で手を振りながら近寄る。
『こんにちはラビー。頼まれた品物を色々と持ってきたラビよ~。相変わらず、クリステン殿はピシッとしているラビね』
「今回も遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」
クリステンさんは丁寧にお辞儀をすると、彼女を私に紹介してくれた。
「フルオラ様、こちらはビトラ様です。“ラビット・ラパン商会”の商会長でいらっしゃいます」
「えええ!?」
“ラビット・ラパン商会”は、ビノザンド王国で一番大きな商会だ。
買えない物はない、というほど幅広い商品を扱っていた。
どの素材もアイテムも高品質で(+お高い)、私の憧れのお店でもある。
幼女みたいなこの人がトップだったとは……。
驚きで固まっていたら、ビトラさんのじろじろとした視線に気づいた。
『そういえば、このお嬢さんは見ない顔ラビね。新しいメイドさんラビか?』
「は、初めましてっ! 私はアース様の専属錬金術師を務めております、フルオラ・メルキュールと申しますっ!」
私も慌ててお辞儀した。
アース様のお知り合いだし、来客に失礼があってはいけない。
自己紹介すると、ビトラさんは不思議そうな顔となる。
『専属錬金術師~? いったいなにラビか~? というか、どうしてこんなに洞窟が明るいラビ……って、上には空があるラビ! 暗黒地底は吹き抜けになったラビか!? ああ、大変ラビ! 崩れるラビ~! 崩れるラビ~!』
ビトラさんは、わあわあと騒ぎまくる。
そ、そうだ、暗い地底しか知らない人は驚くに決まっているでしょうが。
早く誤解を解かねば……!
「落ち着いてください! こ、これはその……違くて……」
いつもはすぐにオタクの早口が炸裂するくせに、こういうときは呂律が回らなくなる。
自分のコミュ障ぶりが恨めしい。
あわあわしていたら、落ち着きはらったクリステンさんがスッ……と私の前に出た。
「洞窟の明るさや天井の空は、全てフルオラ様が錬成された魔道具による改善の結果なのでございます」
『魔道具……ラビか?』
「はい。フルオラ様は大変優秀な錬金術師でいらっしゃいまして、地底を明るくしたり、空を映し出す魔道具を製作くださいました。こちらがその品々でございます」
『へぇ~、ちょっと見てもいいラビか?』
しどろもどろになっている間に、クリステンさんが理路整然と説明してしまった。
さすがはS級メイド。
ビトラさんは汗を拭きながら各魔道具の元へ進む。
こうしちゃいられん、と予備の《ミニエアコン》をビトラさんに渡した。
壊れたときにすぐ交換できるよう、いつも一つ持ち歩いているのだ。
「あ、あのっ! 良かったら使ってください!」
『んん? これも魔道具ラビか? ずいぶんと小さいラビね』
「自分の周りを冷たい空気で覆う、《ミニエアコン》です。出っ張りを押すと作動します」
『ふ~ん、そんな魔道具わっちも聞いたことないラビよ。そんなのあったら革命だラビ。……って、えええ!? めっちゃ涼しいラビ!』
《ミニエアコン》が作動すると、ビトラさんは驚愕した。
ただでさえ大きな瞳が、顔から零れ落ちそうなほど見開いている。
「暗黒地底は暑いので、快適に過ごせるような魔道具を作っているんです。《ミニエアコン》は自分で魔力を生成する機能があるので、魔力の補給は要りません」
『ぃえええ!? そんなチート能力まであるラビか?』
「良かったら差し上げますよ。まだたくさんありますので」
『ほほほ、ほんとラビか!? こんなの金貨何枚分で売れることか……』
ビトラさんは、それはそれは大切そうに《ミニエアコン》を首から下げた。
ほぁぁ~と気持ちよさそうに涼んでいる。
気に入ってくれたようで何より。
自分の好きな分野の話が始まったからか、急に口が回るようになった。
「空を映し出しているのは、《天候照射機》という魔道具です。リアルタイムで外の天候状態を反映しています。でも、実際に雨が降ったりすることはなく、あくまでも映像だけです」
『いやいや、素晴らしい魔道具ラビ。病気や怪我で外に出られない人にも、空を見せてあげられるってことラビよ。……それにしても、本当にすごいラビ』
ビトラさんは感激した様子で天井を見上げる。
朝と変わらず晴天が続いていた。
私たちにとっては特別でもなんでもないけど、彼女の言う通り、外に出られない人は待望の光景かもしれない。
「洞窟を照らしているのは、《照らしライト》でございます。自力で浮遊できるので、いつでもどこでも持ち運びできます。こちらも魔力の供給は必要ありません」
『こんな魔道具はうちでも扱ってないラビ! 絶対、冒険者たちは欲しくて喉から手が出るラビよ!』
「お屋敷の中には大型の《エアコン》もあります。ご覧になりますか?」
『見るに決まってるラビ!』
ビトラさんをお屋敷の中に案内する。
その涼しさに感動し、《エアコン》は引く手あまたの商品になるだろうと褒め称えてくれた。
「今のところ私が作った魔道具はこれくらいです」
『いやぁ、フルオラ殿の作られた魔道具は、どれもこれも世の中の役に立つ物ばかりラビ。あんたはとんでもない錬金術師ラビね。わっちは驚くことしかできないラビよ』
笑顔が絶えないビトラさんの話は、私の心にストンと落ちた。
私が作った魔道具は、地底だけじゃなく外の世界でも有用なのだ。
そう思うと、自分の頑張りが報われたような気持ちになった。
『ということでフルオラ殿。わっちの商会の専属錬金術師になってくれラビ』
「……はい?」
突然、ビトラさんにスカウトされた。
ポカンとする私に、ビトラさんはハイテンションが口説き文句をかけ続ける。
『フルオラ殿がいれば、わっちの商会は大儲けできるラビ! もちろん、給金は弾むラビ。さあ、わっちと一緒に人稼ぎするラビよ!』
「あ、あの、ちょっと待っ……!」
「お待ちくださいませ、ビトラ様っ!」
有無を言わさぬ勢いで手を引かれていく。
クリステンさんが私を掴むけど、敵わずずるずると引きずられてしまう。
子どもっぽい見かけに反して強引な人のようだ。
でもビトラさんのお店にはいけないよ。
アース様の許可も貰えてないのに。
というか私の超インドア生活が~。
あ~れ~と地底屋敷を出た瞬間、私たちの前にぬっ……と黒い影が立ち塞がった。
「ビトラ……何をしている」
『ち、地底辺境伯様っ!』
アース様だ。
な、なんか大変に怒ってらっしゃる?
初めて会ったときより激しいオーラが全身から迸り、ピシピシ……と周りの岩石にヒビが入るほどだ。
たちまち、ビトラさんは全身汗だくになる。
「フルオラを誘拐するな」
『あ、いや……これは違くて……ラビ……』
「話は全部聞かせてもらった。ビトラには感謝している。だが、私からフルオラを奪おうとする者は何人たりとも許さん」
『う、奪うわけじゃなくて……ちょっと拝借というか……ラビ……』
なんとなく誤解が生まれそうな言い方のような……。
おまけにクリステンさんはにまにましているけど、見なかったことにしよう。
その後話し合いとなり、魔道具を作るたびビトラさんにもお送りすることに決まった。
「「いってらっしゃいませ、アース様(辺境伯様)」」
翌朝、お屋敷から出たアース様をクリステンさんと一緒に見送る。
暗黒地底に来てから、私の大事な日課となっていた。
アース様は数歩歩くと立ち止まり、天井を見上げる。
「……今日は晴れか。この調子だと夜まで晴れていそうだな」
「ええ、風も弱いみたいですし、雨は降りそうにありませんね」
天井には青空が広がり、白い雲がぽんぽんと浮かぶ。
雲はゆったりのんびり動いているから、今日はずっと晴天が続くのかな……と思った。
「まさか、暗黒地底で天気の話ができる日がくるとは思わなかった」
「S級メイドとしましても多分に幸せでございます」
《天候照射機》も問題なく作動している。
洞窟内も最初訪れたときとはだいぶ様変わりして、一段と明るくなっていた。
いつの間にか、ほら穴の壁にはいくつもの《照らしライト:浮遊型》が灯されている。
昨夜のうちにクリステンさんがあらかた配置してしまったようだ。
ちなみに、私は爆睡していたので手伝っていない。
手伝えなくてすみませんと言ったら、S級メイドとして当然のことをしたまでです、と返されてしまった。
アース様は満足気な様子で洞窟を見渡す。
「暗黒地底という呼び名が変わるのもそう遠くないだろう。身体も涼しいし、毎日の探索が楽しみだ。昼頃には一度戻ってくるつもりだ。《照らしライト》もいくつか持っていくか」
「まだまだ量産できますので、足りなくなったらいつでもお申し付けください」
「お気をつけていってらっしゃいませ、グラウンド様」
アース様は足取り軽く地底へ進み、その後を《照らしライト:浮遊型》がふわふわと追う。
より効率的に錬成できるよう、各魔道具の錬成陣の改良も進める予定だ。
「それでは、フルオラ様。私は洞窟内の掃除を行いますが、お屋敷に戻りますか?」
「はい。今日は地熱調査の準備を進めようと思います」
私たちは《ミニエアコン》があるから涼しいけど、いずれは洞窟内全体の暑さも改善したい。
小さな魔道具といっても、ずっと首から下げていると疲れるからね。
何より、どうしてこんなに暑いのか、地熱だとしたら何かしら有効活用できるんじゃないか……という好奇心を満たしたかった。
クリステンさんと別れ、お屋敷に入ろうとしたときだ。
甲高い女性の声が私たちの耳に入った。
『あああ~、今日も暑いラビね~! って、どうしてこんなに明るいラビかぁ!? ここは地獄の代名詞と言われる暗黒地底ラビよねぇ!?』
暗黒地底の入り口から聞こえる。
こんな経験、ここに来て初めてのことだ。
緊張しながらクリステンさんに尋ねる。
「ク、クリステンさん、何か声が聞こえますよ? お屋敷にいらっしゃる方ですか? そ、それとも魔物じゃ……?」
「落ち着いてくださいませ、フルオラ様。あちらにいらっしゃるのは、行商人のビトラ様でございます」
「……え? 行商人?」
クリステンさんの返答を待つ間もなく、声の主はこちらに近づいてきた。
だんだん顔や風体が明らかになる。
私の半分くらいの身長に、白くて長い髪の毛、赤くて丸い目、背中には旅人のような大きなリュック、そして最も印象的なのは……頭の上から生えた長くて丸っこい耳。
行商人さんは兎人族だった。
珍しい……。
文献で絵を見たことはあるけど、実際には初めて会った。
行商人さんは私たちを見ると、笑顔で手を振りながら近寄る。
『こんにちはラビー。頼まれた品物を色々と持ってきたラビよ~。相変わらず、クリステン殿はピシッとしているラビね』
「今回も遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」
クリステンさんは丁寧にお辞儀をすると、彼女を私に紹介してくれた。
「フルオラ様、こちらはビトラ様です。“ラビット・ラパン商会”の商会長でいらっしゃいます」
「えええ!?」
“ラビット・ラパン商会”は、ビノザンド王国で一番大きな商会だ。
買えない物はない、というほど幅広い商品を扱っていた。
どの素材もアイテムも高品質で(+お高い)、私の憧れのお店でもある。
幼女みたいなこの人がトップだったとは……。
驚きで固まっていたら、ビトラさんのじろじろとした視線に気づいた。
『そういえば、このお嬢さんは見ない顔ラビね。新しいメイドさんラビか?』
「は、初めましてっ! 私はアース様の専属錬金術師を務めております、フルオラ・メルキュールと申しますっ!」
私も慌ててお辞儀した。
アース様のお知り合いだし、来客に失礼があってはいけない。
自己紹介すると、ビトラさんは不思議そうな顔となる。
『専属錬金術師~? いったいなにラビか~? というか、どうしてこんなに洞窟が明るいラビ……って、上には空があるラビ! 暗黒地底は吹き抜けになったラビか!? ああ、大変ラビ! 崩れるラビ~! 崩れるラビ~!』
ビトラさんは、わあわあと騒ぎまくる。
そ、そうだ、暗い地底しか知らない人は驚くに決まっているでしょうが。
早く誤解を解かねば……!
「落ち着いてください! こ、これはその……違くて……」
いつもはすぐにオタクの早口が炸裂するくせに、こういうときは呂律が回らなくなる。
自分のコミュ障ぶりが恨めしい。
あわあわしていたら、落ち着きはらったクリステンさんがスッ……と私の前に出た。
「洞窟の明るさや天井の空は、全てフルオラ様が錬成された魔道具による改善の結果なのでございます」
『魔道具……ラビか?』
「はい。フルオラ様は大変優秀な錬金術師でいらっしゃいまして、地底を明るくしたり、空を映し出す魔道具を製作くださいました。こちらがその品々でございます」
『へぇ~、ちょっと見てもいいラビか?』
しどろもどろになっている間に、クリステンさんが理路整然と説明してしまった。
さすがはS級メイド。
ビトラさんは汗を拭きながら各魔道具の元へ進む。
こうしちゃいられん、と予備の《ミニエアコン》をビトラさんに渡した。
壊れたときにすぐ交換できるよう、いつも一つ持ち歩いているのだ。
「あ、あのっ! 良かったら使ってください!」
『んん? これも魔道具ラビか? ずいぶんと小さいラビね』
「自分の周りを冷たい空気で覆う、《ミニエアコン》です。出っ張りを押すと作動します」
『ふ~ん、そんな魔道具わっちも聞いたことないラビよ。そんなのあったら革命だラビ。……って、えええ!? めっちゃ涼しいラビ!』
《ミニエアコン》が作動すると、ビトラさんは驚愕した。
ただでさえ大きな瞳が、顔から零れ落ちそうなほど見開いている。
「暗黒地底は暑いので、快適に過ごせるような魔道具を作っているんです。《ミニエアコン》は自分で魔力を生成する機能があるので、魔力の補給は要りません」
『ぃえええ!? そんなチート能力まであるラビか?』
「良かったら差し上げますよ。まだたくさんありますので」
『ほほほ、ほんとラビか!? こんなの金貨何枚分で売れることか……』
ビトラさんは、それはそれは大切そうに《ミニエアコン》を首から下げた。
ほぁぁ~と気持ちよさそうに涼んでいる。
気に入ってくれたようで何より。
自分の好きな分野の話が始まったからか、急に口が回るようになった。
「空を映し出しているのは、《天候照射機》という魔道具です。リアルタイムで外の天候状態を反映しています。でも、実際に雨が降ったりすることはなく、あくまでも映像だけです」
『いやいや、素晴らしい魔道具ラビ。病気や怪我で外に出られない人にも、空を見せてあげられるってことラビよ。……それにしても、本当にすごいラビ』
ビトラさんは感激した様子で天井を見上げる。
朝と変わらず晴天が続いていた。
私たちにとっては特別でもなんでもないけど、彼女の言う通り、外に出られない人は待望の光景かもしれない。
「洞窟を照らしているのは、《照らしライト》でございます。自力で浮遊できるので、いつでもどこでも持ち運びできます。こちらも魔力の供給は必要ありません」
『こんな魔道具はうちでも扱ってないラビ! 絶対、冒険者たちは欲しくて喉から手が出るラビよ!』
「お屋敷の中には大型の《エアコン》もあります。ご覧になりますか?」
『見るに決まってるラビ!』
ビトラさんをお屋敷の中に案内する。
その涼しさに感動し、《エアコン》は引く手あまたの商品になるだろうと褒め称えてくれた。
「今のところ私が作った魔道具はこれくらいです」
『いやぁ、フルオラ殿の作られた魔道具は、どれもこれも世の中の役に立つ物ばかりラビ。あんたはとんでもない錬金術師ラビね。わっちは驚くことしかできないラビよ』
笑顔が絶えないビトラさんの話は、私の心にストンと落ちた。
私が作った魔道具は、地底だけじゃなく外の世界でも有用なのだ。
そう思うと、自分の頑張りが報われたような気持ちになった。
『ということでフルオラ殿。わっちの商会の専属錬金術師になってくれラビ』
「……はい?」
突然、ビトラさんにスカウトされた。
ポカンとする私に、ビトラさんはハイテンションが口説き文句をかけ続ける。
『フルオラ殿がいれば、わっちの商会は大儲けできるラビ! もちろん、給金は弾むラビ。さあ、わっちと一緒に人稼ぎするラビよ!』
「あ、あの、ちょっと待っ……!」
「お待ちくださいませ、ビトラ様っ!」
有無を言わさぬ勢いで手を引かれていく。
クリステンさんが私を掴むけど、敵わずずるずると引きずられてしまう。
子どもっぽい見かけに反して強引な人のようだ。
でもビトラさんのお店にはいけないよ。
アース様の許可も貰えてないのに。
というか私の超インドア生活が~。
あ~れ~と地底屋敷を出た瞬間、私たちの前にぬっ……と黒い影が立ち塞がった。
「ビトラ……何をしている」
『ち、地底辺境伯様っ!』
アース様だ。
な、なんか大変に怒ってらっしゃる?
初めて会ったときより激しいオーラが全身から迸り、ピシピシ……と周りの岩石にヒビが入るほどだ。
たちまち、ビトラさんは全身汗だくになる。
「フルオラを誘拐するな」
『あ、いや……これは違くて……ラビ……』
「話は全部聞かせてもらった。ビトラには感謝している。だが、私からフルオラを奪おうとする者は何人たりとも許さん」
『う、奪うわけじゃなくて……ちょっと拝借というか……ラビ……』
なんとなく誤解が生まれそうな言い方のような……。
おまけにクリステンさんはにまにましているけど、見なかったことにしよう。
その後話し合いとなり、魔道具を作るたびビトラさんにもお送りすることに決まった。