王子様の恋人になるお仕事はじめました
第一章 王子様との出会い
「シェリア様、今日はどちらへ?」
「エステとネイルサロンに行ってから、父主催のパーティーに出席するわ。集まるのは政治家や貴族のオジサマばかりでつまらないのだけれど、パーティーには華がないとね。ガーネット、あなたも来るでしょう?」
「はい。けれど、シェリア様は豪華絢爛な薔薇ですもの。私なんて見劣りしちゃう」
女子生徒たちが廊下を歩きながら、おしゃべりに花を咲かせている。彼女らの身なりは華やかで、会話の内容も庶民とは違う。
わたしは羨望を押し殺し、廊下のモップ掛けに勤しむ。
きらびやかな彼女たちを見ないよう、声が聞こえないよう、無心にモップを動かす。
わたしが生まれ育ったサイリス国は、万年雪をかぶる美しい山脈と、透き通るような青い湖が点在する自然豊かな国。
世界各地の王族や貴族の子女たちが通う名門大学で、わたしは清掃員として働いている。
ただひたすらにモップをかけていると、バケツが倒れた。
「あ……」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ」
「あ、いえ……。すみません……」
華やかな集団の中でも一際目立って美しい生徒——友人らにシェリア様と呼ばれている女性が、微笑みながら謝罪を口にした。
わたしは倒れたバケツを元に戻し、バケツの中に入れていた掃除用洗剤と雑巾を拾った。
再度モップを手に取ると、視界の端で、ベージュ色のピンヒールがバケツを力いっぱいに蹴るのが見えた。
派手な音をたててバケツが転がっていく。
「エステとネイルサロンに行ってから、父主催のパーティーに出席するわ。集まるのは政治家や貴族のオジサマばかりでつまらないのだけれど、パーティーには華がないとね。ガーネット、あなたも来るでしょう?」
「はい。けれど、シェリア様は豪華絢爛な薔薇ですもの。私なんて見劣りしちゃう」
女子生徒たちが廊下を歩きながら、おしゃべりに花を咲かせている。彼女らの身なりは華やかで、会話の内容も庶民とは違う。
わたしは羨望を押し殺し、廊下のモップ掛けに勤しむ。
きらびやかな彼女たちを見ないよう、声が聞こえないよう、無心にモップを動かす。
わたしが生まれ育ったサイリス国は、万年雪をかぶる美しい山脈と、透き通るような青い湖が点在する自然豊かな国。
世界各地の王族や貴族の子女たちが通う名門大学で、わたしは清掃員として働いている。
ただひたすらにモップをかけていると、バケツが倒れた。
「あ……」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ」
「あ、いえ……。すみません……」
華やかな集団の中でも一際目立って美しい生徒——友人らにシェリア様と呼ばれている女性が、微笑みながら謝罪を口にした。
わたしは倒れたバケツを元に戻し、バケツの中に入れていた掃除用洗剤と雑巾を拾った。
再度モップを手に取ると、視界の端で、ベージュ色のピンヒールがバケツを力いっぱいに蹴るのが見えた。
派手な音をたててバケツが転がっていく。
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