王子様の恋人になるお仕事はじめました

第二章 恋人役のお仕事

 アルオニア王子の屋敷の使用人にとって、わたしの第一印象は最悪だろう。みすぼらしい身なりをした不審者だと思われているかもしれない。
 なので手持ちの服の中で、一番上等のものを選んだ。といっても、シンプルな麻のワンピースなのだけれど。
 髪をきっちりと結えて、乾燥している唇に保湿クリームを塗る。

「よし! これで大丈夫。今日は屋敷に入れてもらえるはず」

 アルオニア王子を通して、今日屋敷に伺うことは使用人に伝わっているとは思う。それでも不安が募って、緊張してしまう。

 屋敷に着くと、出迎えてくれた使用人が丁寧な応対をしてくれた。

「リルエ様、お待ちしておりました。お話は伺っております。執事のヴェサリスの部屋にご案内します」
「あ、はい。ありがとうございます……」

 前回とはあまりにもかけ離れた対応に、拍子抜けする。おまけに様付けで呼ばれるなんて生まれて初めてのことなので、むず痒い。


 ヴェサリス執事の部屋で、恋人役の契約書を渡されて説明を受ける。

「大切なことが二点あります。一点目は、仕事期間中も終了後も、一切口外しないこと。恋人役の仕事を依頼されたこともそうですし、アルオニア様のプライベートも第三者に話してはなりません」
「はい。分かりました」
「二点目は、お給料は前払いと致します。後から金銭の催促をなさらぬようお願いします」
「それはもちろん! 大丈夫です」
「期間としては、アルオニア様が大学を卒業するまでとなっています。承諾していただけるなら、サインをお願いします」

 ヴェサリスから万年筆を渡される。
 

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