王子様の恋人になるお仕事はじめました
大国エルニシアの王子の恋人役なのだから、契約が複雑だったり、身内調査があったらどうしよう……と身構えていた。
けれど両親について何も聞かれず、契約内容もシンプルでホッとする。
不安に思うほど、責任の重い仕事ではないのかもしれない。親密な関係の女性がいるという匂わせ程度の役割であるなら、わたしにでも十分できそうだ。
そう考え、署名欄にサインをする。
ヴェサリスは契約書を確認すると、一つ大きく頷いた。
「これで契約は完了となります。では今から、アルオニア様の彼女となっていただきます。よろしくお願いします」
「い、いまからですか⁉︎」
驚きのあまり、声が裏返ってしまった。
ヴェサリスは、契約書に記してある雇用期間の部分を指さした。
「日付が今日からになっているでしょう?」
「そうですが、早速始まるとは思っていなくて……」
「不安ですか?」
素直に頷く。
「契約書には、彼女役としてするべき具体的な行動が書いていないのですが……何をしたらいいのでしょう?」
「気負う必要はありません。世間一般的な恋人のようなことでいいのです」
「それが問題でして……」
ヴェサリス執事は理知的な目をしているのだけれど、物腰が柔らかく、声に丸みがある。人見知りのわたしでも打ち解けられるぐらい、話しやすい雰囲気がある。
そのせいで、つい、正直に話してしまう。
「大変に恥ずかしいのですが、その……わたし、誰ともお付き合いをしたことがなくて……。世間一般的な恋人のすることと言われましても、まったくピンとこなくて……」
ヴェサリスは一瞬言葉に詰まらせたのち、拍子抜けしたように笑い出した。
「いや、笑って失礼。そっちの不安でしたか。わたくしはてっきり、アルオニア様を本気で好きになったらどうしようとか、そのような不安かと……」
「そんなだいそれたことありえません! 絶対にないですから! それに、これは仕事だって分かっています。ビジネスパートナーとしてのルールは守ります!」
「そうですか、それは頼もしい限りです」
ヴェサリスは「リルエさんの不安を解消するに相応しい使用人がいます」と、呼び鈴を鳴らした。
けれど両親について何も聞かれず、契約内容もシンプルでホッとする。
不安に思うほど、責任の重い仕事ではないのかもしれない。親密な関係の女性がいるという匂わせ程度の役割であるなら、わたしにでも十分できそうだ。
そう考え、署名欄にサインをする。
ヴェサリスは契約書を確認すると、一つ大きく頷いた。
「これで契約は完了となります。では今から、アルオニア様の彼女となっていただきます。よろしくお願いします」
「い、いまからですか⁉︎」
驚きのあまり、声が裏返ってしまった。
ヴェサリスは、契約書に記してある雇用期間の部分を指さした。
「日付が今日からになっているでしょう?」
「そうですが、早速始まるとは思っていなくて……」
「不安ですか?」
素直に頷く。
「契約書には、彼女役としてするべき具体的な行動が書いていないのですが……何をしたらいいのでしょう?」
「気負う必要はありません。世間一般的な恋人のようなことでいいのです」
「それが問題でして……」
ヴェサリス執事は理知的な目をしているのだけれど、物腰が柔らかく、声に丸みがある。人見知りのわたしでも打ち解けられるぐらい、話しやすい雰囲気がある。
そのせいで、つい、正直に話してしまう。
「大変に恥ずかしいのですが、その……わたし、誰ともお付き合いをしたことがなくて……。世間一般的な恋人のすることと言われましても、まったくピンとこなくて……」
ヴェサリスは一瞬言葉に詰まらせたのち、拍子抜けしたように笑い出した。
「いや、笑って失礼。そっちの不安でしたか。わたくしはてっきり、アルオニア様を本気で好きになったらどうしようとか、そのような不安かと……」
「そんなだいそれたことありえません! 絶対にないですから! それに、これは仕事だって分かっています。ビジネスパートナーとしてのルールは守ります!」
「そうですか、それは頼もしい限りです」
ヴェサリスは「リルエさんの不安を解消するに相応しい使用人がいます」と、呼び鈴を鳴らした。