王子様の恋人になるお仕事はじめました
 社交会は、サイリス国にある一流ホテルで開かれている。
 巨大なシャンデリアが、落ち着いた色合いのベージュ色の絨毯に華美な光を落とし、煌びやかな空間では著名人たちが談笑している。

「エルニシア国のアルオニア王子が来るそうだな」
「いいお歳なのだから、結婚を前提とした恋人がいるかもしれないな」
「どのような恋人を連れてくるのか、見てやろうじゃないか」

 噂されている。どうしようっ!!
 心臓が飛び出しそうなほどにドキドキし、足が震えて前に進めない。
 会場に入ったすぐの場所で怖気付いていると、ヴェサリスがわたしの手を自分の腕に絡ませた。

「ここにいるのは名の通った人たちではありますが、グレース先生ほど有名ではありません。リルエさんはグレース先生直々にレッスンを受け、合格したのですから、堂々と胸を張りましょう」
「グレース先生って、そんなに有名な先生なんですか?」
「はい」

 わたしはオルランジェにメイクをしてもらい、ジュリアに髪を結ってもらった。ドレスはスパンコールが煌めくシャンパン色で、両肩が出ている。
 外見こそ、上品ながらも華やかな装いではあるけれど、年齢層の高いゲストの中に入っていくのはかなりの勇気を必要とする。
 ヴェサリスは会場の奥に進みたがったけれど、わたしは壁際に誘う。

「なぜに壁側に行くのです?」
「話しかけられないためにです。目立たないようにして、時間をつぶしましょう」
「リルエさん。それでは一体、なんのためにここに来たのかわかりませんよ。社交会は交流の場なのですから、自分から……」
「これはこれは、ヴェサリスじゃないか!! 久しぶり! 元気だったか!」

 ひそひそ声で口論をしていると、口髭を生やした大柄な男性がヴェサリスの肩を叩いた。
 
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