王子様の恋人になるお仕事はじめました
はしゃぐオルランジェに手を取られて、空き教室に連れていかれる。そこにはメイドのジュリアがいて、化粧道具を広げていた。
「ダンスパーティーが始まるまで、あと十分。主役は遅れていくのが定番ではありますが、あまりにも遅いとダンスが終わってしまいます。二十五分で身支度を完了し、五分で会場に到着すれば、メインダンスに間に合います」
「さすがジュリア! 完璧な計算だわ。よぉ〜し、リルエちゃんをゴージャスに大変身させちゃうわよぉ!!」
「あの、いったいなにを……」
「時間が惜しいわ! このドレスを着てちょうだい!!」
レースが幾重にも重なった、ボリュームのある紫色のドレスを着させられる。
「紫色って……アルオニア様の瞳の色じゃ……」
「正解っ!! さぁ、お化粧をするわよ。ジュリアは髪をお願い」
オルランジェはわたしに化粧を施しながら、話してくれた。
社交会があった日。ガーネットは王子の公務先に行き、「シェリアは男友達に頼んで、アルオニア様と別れるよう、リルエを脅す気でいる」と話したらしい。
急いで来てみれば、わたしは男に羽交締めにされているし、シェリアはナイフを持っていた。男二人の自供で、性的乱暴を働く気だったことが明るみになった。
「アル王子は、言葉で脅すだけだと思っていたらしいの。けれど実際は、それ以上のことが行われようとしていた。アル王子は自分の認識の甘さと、ガーネットが教えてくれなかったら、取り返しのつかないことになっていたことに青ざめてね。それが、恋人役の仕事を頼んだことを後悔している、との言葉に繋がったのよ」
「そうだったんですか……。わたしが、言葉を受け取るのを間違えたから……」
「心配いらないわ。王子様は待っててくれているもの」
オルランジェはわたしの肩を叩くと、鏡越しに目を合わせた。
「恋の魔法使いができることは、ここまで。パーティー会場には、自分の足で歩いていかないといけないわ。そして会場で王子様に会ったら、たとえ時間が来ても、手を離してはいけない。運良く靴が脱げるとも限らないし、その靴の持ち主を探しに来てくれる保証もない。今度こそ、王子様と向き合える?」
「はい……」
「きゃあ〜、泣いちゃダメぇー! 化粧が落ちちゃう!!」
「オルランジェさん、ありがとうございます。わたし、頑張ります!」
わたしは涙をぐっと堪え、会場へと歩いていった。そして自分の手で、会場の扉を開けたのだった。
「ダンスパーティーが始まるまで、あと十分。主役は遅れていくのが定番ではありますが、あまりにも遅いとダンスが終わってしまいます。二十五分で身支度を完了し、五分で会場に到着すれば、メインダンスに間に合います」
「さすがジュリア! 完璧な計算だわ。よぉ〜し、リルエちゃんをゴージャスに大変身させちゃうわよぉ!!」
「あの、いったいなにを……」
「時間が惜しいわ! このドレスを着てちょうだい!!」
レースが幾重にも重なった、ボリュームのある紫色のドレスを着させられる。
「紫色って……アルオニア様の瞳の色じゃ……」
「正解っ!! さぁ、お化粧をするわよ。ジュリアは髪をお願い」
オルランジェはわたしに化粧を施しながら、話してくれた。
社交会があった日。ガーネットは王子の公務先に行き、「シェリアは男友達に頼んで、アルオニア様と別れるよう、リルエを脅す気でいる」と話したらしい。
急いで来てみれば、わたしは男に羽交締めにされているし、シェリアはナイフを持っていた。男二人の自供で、性的乱暴を働く気だったことが明るみになった。
「アル王子は、言葉で脅すだけだと思っていたらしいの。けれど実際は、それ以上のことが行われようとしていた。アル王子は自分の認識の甘さと、ガーネットが教えてくれなかったら、取り返しのつかないことになっていたことに青ざめてね。それが、恋人役の仕事を頼んだことを後悔している、との言葉に繋がったのよ」
「そうだったんですか……。わたしが、言葉を受け取るのを間違えたから……」
「心配いらないわ。王子様は待っててくれているもの」
オルランジェはわたしの肩を叩くと、鏡越しに目を合わせた。
「恋の魔法使いができることは、ここまで。パーティー会場には、自分の足で歩いていかないといけないわ。そして会場で王子様に会ったら、たとえ時間が来ても、手を離してはいけない。運良く靴が脱げるとも限らないし、その靴の持ち主を探しに来てくれる保証もない。今度こそ、王子様と向き合える?」
「はい……」
「きゃあ〜、泣いちゃダメぇー! 化粧が落ちちゃう!!」
「オルランジェさん、ありがとうございます。わたし、頑張ります!」
わたしは涙をぐっと堪え、会場へと歩いていった。そして自分の手で、会場の扉を開けたのだった。