王子様の恋人になるお仕事はじめました
 会場には大勢の生徒たちがいて、ダンスパーティーに相応しい華やかな格好をしている。
 ゆったりとした音楽に合わせて男女がペアになって踊っている様は、とても優雅で美しい。
 そういえば……と思い出す。
 ダンスを必死に練習したのに、肝心の社交会は立食しながら交流を深める場になっていて、踊るような雰囲気ではなかった。

 もしかして……社交会のためではなく、卒業パーティーのためのダンスレッスンだった?

 ヴェサリスもオルランジェもマッコンエルも、わたしとアルオニア王子が距離を縮めるために諸々画策してくれた。ヴェサリスが、社交会にかこつけてダンス特訓をしたとしてもおかしくない気がする。

 改めて、ダンスをしている人たちを見回す。
 ダンスをしている生徒たちの中に王子の姿はない。会場の隅まで視野を広げると、アルオニア王子は壁に背中を預けていた。
 
 ——アルオニア王子が、わたしを見た。そんな気がした。
 
 会場の中央に向かって歩みを進めると、王子も足を踏み出した。
 目が合ったように思ったのは、気のせいじゃなかった。わたしたちは互いを求めてダンスをしている人たちの間を歩き、会場の真ん中で、対面した。

「アルオニア様……」

 名前を呼ぶと、王子の瞳が和らぎ、固く結ばれていた唇が綻んだ。
 好きな人の眼差しを受けることのできる幸福に、瞳が潤む。準備してきた言葉を唇に乗せる。

「気持ちにずっと、蓋をしてきました。けれどもう、抑えきれないんです。わたしは……アルオニア様が、好きです」
「先に言われてしまった。僕も想いを告げようと、あれこれ考えていたのだけれど……」

 王子は吐息混じりに笑みをこぼした。けれど、すぐに真顔になる。

「僕と一緒になるということは、君の環境をすべて変えることになる。この先、つらい思いをさせてしまうだろう。君を手放したほうがいいのではないかと、何度も思った。でも、ダメなんだ。……リルエが好きだ。どうか、この手を取ってほしい」

 王子が差し出した手のひらに、わたしは迷うことなく手を重ねた。その手を王子がぎゅっと握る。

 
< 83 / 102 >

この作品をシェア

pagetop