王子様の恋人になるお仕事はじめました
 見ていた生徒たちの囁き声が大きくなって、はっきりと声が届く。

「あの子が、王子のダンスのパートナー?」
「恋人ができたって本当だったの⁉︎ ショックなんだけど!!」
「あれ? どこかで見たことがあるような……」
「あんな綺麗な子、学校にいたっけ?」

 怪訝な声がどんどん広がっていく。音楽が流れているにも関わらず、生徒らはダンスをやめた。

「あの子……もしかして清掃員の子じゃ……」
「嘘でしょう! なんでっ!!」
「どういうこと⁉︎」
「信じられない! どんな関係なの⁉︎」

 泣き叫ぶ女子生徒たち。わたしは背伸びし、王子の耳元でひそひそ話をする。

「王子のファンの子たちが泣いています! 帰ったほうがいいんじゃないでしょうか?」
「この後、メインダンスが始まる。リルエと踊りたい」
「でも、みんなに注目されています。噂になっちゃう!」
「好都合だ」

 王子はわたしと手を繋いだまま、ざわついている生徒らに体を向けた。揺るぎない堂々とした声で宣言する。

「彼女は、私の大切な恋人です。結婚を視野に入れた交際をしています」
「うっそぉーーーーっ!!」

 絶叫する生徒ら。わたしも動揺の悲鳴をあげる。

「ええーっ⁉︎」
「なに、リルエは違うの? 僕のこと、遊び相手として考えているわけ?」
「違います!! そうじゃなくて……」
「リルエを大切に想う気持ちの延長にあるのは、結婚なんだけれど。リルエはまさか、僕の気持ちを弄んでポイ捨てするつもりだった?」
「そんなわけないですっ! そうじゃなくて、みんなの前で結婚なんて、そんな……」
「リルエを横取りしようとする男を牽制しておかないとね」
「そんな人いないと思いますけれど……」

 王子はわたしの頬に触れると、「拗ねた顔をしても、可愛いだけだよ」と笑った。
 
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