名前
 

「ね、ママ」

 幼い娘に声をかけられ「なぁに?」と振り返った。

「これ、なんて書いてあるの?」

 そうたずねられ苦笑する。
 あぁ見つかってしまったか。
 別に隠していたわけじゃないけれど。こんな場所にひっそりと文字が書いてあるのに気付いたら、不思議に思うのも無理はない。

 そんなことを考えながら「これは名前だよ」と教えてあげる。

「だれの?」

 無邪気な質問に、微笑みながら答えた。

「世界一かっこよくて、でもバカな男の名前」


◇◇◇

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