名前
 

「志摩ってほんとクズだよね」
「ひどい言われようじゃのう。わしはちゃんと理由があって行動しとるんよ」
「嘘つけ」

 志摩は他人に興味も執着もない。気まぐれな野良猫のように目についた女に近づき甘え、飽きれば見向きもしない。

 誰にでも友好的に見えて、本当は誰にも心を許していない。
 もちろん私にも。

「っていうか、いい加減お嬢って呼ぶのやめてよ」
「嫌じゃ。お嬢はお嬢じゃ」

 何度言っても志摩は私を名前で呼んでくれなかった。
 ほかの女の子は初対面から下の名前で呼ぶくせに。

 いっそ志摩がただの他人だったらよかったのに。
 そうしたら抱かれて捨てられて憎んで。
 それで終わりにできたのに。

 私はいつまでこの男に、心を乱されなければならないんだろう。

「それにしても、商売するならこんな縁も所縁もない所じゃなく、地元でやればええじゃろ。そしたら毎日わしが通ってやるのに」
「それが嫌だから地元を離れたんでしょ」

 大学を卒業し家を出たのは、誰も知らない場所で自立したかったからだ。

 
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