白百合なんて似合わない
2.
仲のいいライボルトとリーゼロット様を羨ましく思う私といえば、最近、エリオットとの仲はよろしくない。……というよりも以前よりもエリオットのよそよそしさが増しているのだ。
何かがおかしいなと気づいたのはつい3日ほど前のことである。だが思い返してみれば、最近のエリオットは私と視線が合いそうになると逸らすようになっていた。そしてそれをキッカケに記憶を辿ってみたところ、ここ1ヶ月ほどエリオットの帰りが遅いことに気がついた。仕事なのかと思ったが、それにしては目を逸らすようになった時期と同じくらいからなのだ。けれどその肝心の、キッカケとなった出来事をわからない。だから困っているのだが、可能性として私の頭に真っ先に上がったのが、以前、リガードの言っていた『エリオットの好きな女性』だ。
てっきりエリオットはその女性を諦めて、ブラントンにより利益のあるよう、ハリンストンの娘と縁を結ぶことを選んだのだと思っていたのが、あくまでそれは私の推測である。そして新たに同じように推測の幅を広げるわけだが、もしもエリオットがその相手と関係を望んでいる、もしくはすでに何かしらの関係にあり、今後も継続をしていくつもりならば……それは少しだけ厄介だ。
なにせリガード曰く、町娘では絶対に勝てない権力を持った相手なのだ。そこそこの地位にある女性と判断していいだろう。
平民ならばどんな風にでも、愛人として迎える方法はいくらでもある。だがそうでないなら、貴族なら地位が高ければ高いほど厄介だ。相手だって体裁がある。結婚をしないわけにはいかないだろう。するとその女性のお相手の方もどうにかしなければいけないのだ。
もしブラントンの家を揺るがすようなことがあれば――そう、考えずにはいられないのだ。
そこのところはどうなのか?
もしもリガードがユリアンナに告げた情報は間違っていて、相手が平民であるならば、使用人として迎え入れたり、家を与えて囲ったりと、何かしらの方法は考えているのか――そう問いたいところなのだが、いかんせん一番時間の取りやすい夜にはエリオットはすぐに寝てしまう。それも私の方に背中を向けて。初夜を含め、何度か義務のように抱かれることはあった。だが最近はそれすらなくなった。
『オンナ』であることを私には求めなくなったのだろう。それも誰か他に相手がいるのではないかと私が勘ぐる理由の一つである。元々私は愛人の存在を非難するつもりなどない。別に相手がいるならいるで構わないのだ。なんなら愛人と子どもを作ってもらっても一向に構わない。
だがその話くらいはしてほしい。愛人と出来た子どもは養子として迎え入れるか否かは結構重要な問題なのだから。
「ただいま」
「おかえりなさい、エリオット様」
今だってエリオットと私の視線が交わることはない。その代わり、罪悪感がこもっているような眼差しを私の背中へと向けるのだ。
罪悪感なんてものを覚えてしまうくらいなら早く話してくれればいいのに……。そう思いはするものの、今日もまた直接口に出すことはできないでいる。ユリアンナとしてなら言えるだろう。だがここに居るのはユタリアとしての私なのだ。家名が変わってもまた、私はハリンストンの名前を背負ってここに居る。
私は怖いのだ。
ブラントンにハリンストンが軽蔑されることが。
あの日、いつかエリオットは私を受け入れてくれるだろうと思っていた。だが現実はそう上手くはいかない。この一年で私が私でいられる時間は、結婚する前と変わらず、ハリンストンの人間の前でだけなのだから。
仲のいいライボルトとリーゼロット様を羨ましく思う私といえば、最近、エリオットとの仲はよろしくない。……というよりも以前よりもエリオットのよそよそしさが増しているのだ。
何かがおかしいなと気づいたのはつい3日ほど前のことである。だが思い返してみれば、最近のエリオットは私と視線が合いそうになると逸らすようになっていた。そしてそれをキッカケに記憶を辿ってみたところ、ここ1ヶ月ほどエリオットの帰りが遅いことに気がついた。仕事なのかと思ったが、それにしては目を逸らすようになった時期と同じくらいからなのだ。けれどその肝心の、キッカケとなった出来事をわからない。だから困っているのだが、可能性として私の頭に真っ先に上がったのが、以前、リガードの言っていた『エリオットの好きな女性』だ。
てっきりエリオットはその女性を諦めて、ブラントンにより利益のあるよう、ハリンストンの娘と縁を結ぶことを選んだのだと思っていたのが、あくまでそれは私の推測である。そして新たに同じように推測の幅を広げるわけだが、もしもエリオットがその相手と関係を望んでいる、もしくはすでに何かしらの関係にあり、今後も継続をしていくつもりならば……それは少しだけ厄介だ。
なにせリガード曰く、町娘では絶対に勝てない権力を持った相手なのだ。そこそこの地位にある女性と判断していいだろう。
平民ならばどんな風にでも、愛人として迎える方法はいくらでもある。だがそうでないなら、貴族なら地位が高ければ高いほど厄介だ。相手だって体裁がある。結婚をしないわけにはいかないだろう。するとその女性のお相手の方もどうにかしなければいけないのだ。
もしブラントンの家を揺るがすようなことがあれば――そう、考えずにはいられないのだ。
そこのところはどうなのか?
もしもリガードがユリアンナに告げた情報は間違っていて、相手が平民であるならば、使用人として迎え入れたり、家を与えて囲ったりと、何かしらの方法は考えているのか――そう問いたいところなのだが、いかんせん一番時間の取りやすい夜にはエリオットはすぐに寝てしまう。それも私の方に背中を向けて。初夜を含め、何度か義務のように抱かれることはあった。だが最近はそれすらなくなった。
『オンナ』であることを私には求めなくなったのだろう。それも誰か他に相手がいるのではないかと私が勘ぐる理由の一つである。元々私は愛人の存在を非難するつもりなどない。別に相手がいるならいるで構わないのだ。なんなら愛人と子どもを作ってもらっても一向に構わない。
だがその話くらいはしてほしい。愛人と出来た子どもは養子として迎え入れるか否かは結構重要な問題なのだから。
「ただいま」
「おかえりなさい、エリオット様」
今だってエリオットと私の視線が交わることはない。その代わり、罪悪感がこもっているような眼差しを私の背中へと向けるのだ。
罪悪感なんてものを覚えてしまうくらいなら早く話してくれればいいのに……。そう思いはするものの、今日もまた直接口に出すことはできないでいる。ユリアンナとしてなら言えるだろう。だがここに居るのはユタリアとしての私なのだ。家名が変わってもまた、私はハリンストンの名前を背負ってここに居る。
私は怖いのだ。
ブラントンにハリンストンが軽蔑されることが。
あの日、いつかエリオットは私を受け入れてくれるだろうと思っていた。だが現実はそう上手くはいかない。この一年で私が私でいられる時間は、結婚する前と変わらず、ハリンストンの人間の前でだけなのだから。