元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!

◇14


 私は、口をあんぐりしてしまった。

 何だ、この建物は。デカくて豪華で周りとは比べ物にならないくらいお金かかってます感が駄々洩れだぞこれ。一体何階建てよこれ。


「……デカいですね」

「そりゃそうだ。王家御用達であるロイヤルワラント商会なんだから。しかもこの商会の経営者はこの国の大公家当主。これくらい金掛けないと、この国の大公家の資金はカツカツなのかって思われるだろ。外国からわざわざ来る客もいるんだからな」

「なるほど……」


 まぁ、大公家ってこの国一番の大富豪だし……実家は貧乏、そして前世は一般家庭。そんな私の頭では、あまりよく理解出来ない。とりあえず、すごい。

 お待ちしておりました、大公様、ご夫人。そう声をかけてきたのは、ここの責任者らしい男性。どうぞ、と中に案内された。

 中もやっぱり豪華。レッドカーペットに、シャンデリア。ここは一体どこですか? と言いたいところだ。


「……本当に、ここで買い物しちゃっていいんですか」

「何だよ、ビビってんのか。お前はここの取締役商会長の夫人だぞ。どうしてここで買い物しちゃいけない理由があるんだよ」

「……」

「もうお前にお小遣いは用意してるから安心しろ。いくらでも使っていい」

「えぇえ!?」

「さしてびっくりするもんじゃないだろ。いいか、金は持ってるだけならコレクションにしかならない。一番重要なのは、自分が自由に使えるお金がどれくらいあるか、という事だ。持ってても使えなきゃ意味がないからな」

「……なるほど」

「そして、使えるお金は持ってるだけじゃ意味がない。使わないと経済が回らないからな。だからお前が思う存分使ってこの国の経済をぐるっぐるに回してやれ」

「……なるほど」

「……お前、頭ついていけてるか? さっきからなるほどしか言ってないだろ」

「……貧乏だったものですから」

「貧乏だった、という事はお金の使い方をよく知ってるって事だろ。衣食住に必要な分と、使用人達を賄う分、領民達に掛ける分、そして自分達が使う分諸々。そんじょそこらの頭ん中お花畑なご令嬢や、自分ちの帳簿の表紙すら見た事がないご夫人よりだいぶ詳しいはずだ」


 ……いいの? こんな所でそんな事言っちゃ。まぁ、ここ自分の店だしいいのか。


「まぁ……」

「だろ? お前の場合、こっちに嫁いできてそれがちょっと大きくなったってだけだろ」


 ……ちょっと?


「なら、ちゃんと使えるよな。とりあえずテトラは、自分に金を費やす、という事に慣れろ」

「はぁ……」

「はぁ。いいか、今、テトラの買い物をしに来た。まぁ目的は苗だが、それは今のテトラにとっては趣味の一環だ。今テトラは大公夫人になったのだから当たり前だろ? だからこの買い物は、自分に費やすもんって事だ」

「……はい」


 確かに、もう責任やらなにやらは今の私にはないわけだ。領民のために、家族のために。今まではそうしてやってきた。

 今はそれがないのだから、これは私の趣味と言っても過言ではない。まぁ、ムカつくけどさ。


「じゃあ、そのお金で実家に支援するのはありですか」

「それは俺が払ってるからいらない」

「あ、はい、そうですか……」


 まぁ、昨日執事から定期的に商会経由で野菜とか送ってるって聞いた。オデール大公領では酪農(らくのう)が盛んだから、そこで採れたものも送られているようで。たぶんお父様や領民達は大喜びしていることだろう。

 酪農というと牛乳などの乳製品だ。この国ではそういったものは高価なものだから手が出せないものだった。けれど、それが手に入るなんてみんな喜んでいるだろうな。そう考えると、私がここに嫁ぐことが出来て本当に良かった。


「じゃあ、ドレスに宝石にって買ってもいいって事ですか」

「いいぞ?」

「……最初結婚式前に言った事、覚えてます?」


 趣味は何だって聞いてきたやつ。宝石やドレスは好きかって。分からん、って答えたらお前本当に令嬢かって言われたのをはっきり覚えてる。あれにはガチでムカついた。


「あれは単なる確認だろ。俺の知ってるようなご令嬢かどうかって。別に買うなとは一言も言ってない。理解して上手にお金を使えるかどうかって事だ。ただ欲しいからって際限なく何でもかんでも買うような奴は嫌だろ。この国の大公夫人だぞ?」

「なるほど……」

「だから、上手に使ってみろ」

「……」


 ……と、言われましても。

 だって私、こんな大金なんて使った事がないんだから。今世では貧乏、前世じゃ一般家庭だったけれど……高いお買い物って言ったら、スマホとかそこら辺だ。あぁ、あとパソコンとか? 電気製品ばかりだ。でもこの世界にはそんなものなんて一つもない。全然参考にならない。
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