元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!

◇15


 とってもいいお天気の中、私達は庭に来ていた。


「これでどうかな? うん、よさそうね!」


 お庭の一角に、数日前に買ってきた苗を並べている。庭のバランスってやつよ。肥料はもうバッチリだからあとは苗を植え付けるだけ。


「奥様はミニトマトがお好きなのですか?」


 作業を手伝ってくれた庭師さんとメイドさん達。その中の一人がそう聞いて来た。


「実家でも作ってたのよ。いい? ミニトマトは洗っただけでそのまま食べられるでしょ? 時間がない時にはサラダにちょこんと置くだけで済んじゃうんだから。しかも低カロリーで栄養満点! いろんな効果だってあるんだから最高の野菜よね」

「なるほど!」


 じゃあすぐに作業しよっか! とみんなで手分けして作業を始めた。今は夏野菜を植えるのに最適な時期だから、今のうちにいろいろと準備した方がいいよね。ミニトマトの為の支柱やひもも準備済み。だからあとは植えて大きくなるのを待つだけだ。


「み~つけたっ」


 しゃがんでいた私の頭上から声がした。その声の主は、エヴァン。顔を頭上に向けると、彼の顔が見えた。そして、隣にしゃがみこんでくる。


「指輪は?」

「こっち」


 胸の辺りを指さした。シルバーのチェーンに通してネックレスにしてあるのだ。一応手袋はしているけれど、汚したり傷をつけたら大変だもん。


「結婚指輪だから常にしてもらいたいところだけど、まっ、お前のもんだから文句は言わない。これ、捨てるんか?」

「ダメですよ、これ捨てちゃ。肥料になるんですよ」


 興味津々で手元をのぞき込んでくる。まぁ、大公様にこれは新鮮だったか。


「へぇ~、これか? シャベル、余りあるか?」

「え? 手伝ってくれるんですか?」

「人手が多ければすぐ終わるだろ。んで、空いた時間で俺とお茶」

「お茶? あははっ、いいですね」


 そういえばアフタヌーンティーがまだだったような。あ、時間を見ないで没頭してたからなぁ。と、思っていたらこんなところに……


「あ」

「……おい、そこはキャ~~って言うところだぞ」

「すみませんね、普通のご夫人じゃなくて。あいにく虫には慣れてるんです」


 こんなところに虫発見。ぽいっと軽いデコピンで飛ばしたのだ。


「こんなご夫人はお嫌ですか?」

「最高」

「あ、はい、そうですか」

「何、照れた?」

「いえ別に」

「強がっちゃって~、素直になりなって」


 この国唯一の大公家当主でありロイヤルワラント商会の取締役商会長、そしてそのご夫人の会話がこんなもので良いのかどうかは分からない。

 周りのメイドや使用人達は私達の事を見てどう思ってるのだろうか。まぁ、旦那様がこんな性格だからもう慣れっこか。じゃあ気にしなくていいか。

 エヴァンが参加してようやく終わった頃にはもうアフタヌーンティーの準備が終わっていると聞いた。おぉ、タイミングバッチリだ。


「さ、テトラちゃんは手を洗いますよ~」

「……旦那様の方が手が汚れてるじゃないですか」

「んじゃ早く手洗いに行くか」


 全く、手袋しないで作業してたから真っ黒ですよ。

 それより、こんな会話でいいのか。なんて思いつつもようやくちょっと遅めのアフタヌーンティーを迎えることが出来たのだった。

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