元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!
◇16
わくわくしつつ、次の日を迎えた。
「こっちのコンロ、一つ貸して?」
「えっ奥様!?」
「大丈夫、危ない事はしないから安心して」
周りの人達も私を疑ってるのか。そんなに信用できないかな、私。なんて肩を落としつつも、昨日仕込んでおいたものを料理長から受け取った。
おぉ、一晩置いただけでこんなにいちごから水分が出るとは。
「出来上がったらみんなでスコーンで食べようね!」
「よろしいのですか?」
「みんなで一緒に食べた方がより美味しいでしょ? それにせっかくの砂糖よ? 私とエヴァンだけで食べるには勿体無いじゃない!」
「奥様……!」
「スコーンの用意はよろしくね!」
「はいっ!」
よし、美味しいスコーンはお願いしたことだし、あとは美味しいジャムを作るだけね!
「よしっ、お鍋を貸して!」
「はいっ! こちらに!」
どちらがよろしいでしょうか、と二つ見せてくれて、こっち! と伝えた。よし、この中にいちごを投入!
「さ、強火よ!」
「奥様!?」
いちごを鍋に入れて強火でかける。
料理長から受け取ったおたまで、出てきたあくを取り除く。
温度計で計りつつ、焦げないようにヘラでぐるぐる。甘〜い匂いがキッチンの中に広がり、周りの料理人達はもう興味津々らしい。背中に視線をだいぶ感じる。
「これくらいかな。完成!」
「おぉ〜!」
なんか、拍手が聞こえるのだが。
とりあえず、できたジャムを少し放置し砂糖を浸透させる。その間に煮沸してもらっていた瓶を用意。
「料理長、手袋貸して」
「私がやりましょうか」
「いいの? 熱いよ?」
「尚更です! 奥様が火傷なんてしてしまったら大変です!!」
あ、はい、そうですか。
と、いうことで瓶詰めは料理長に。これから冷やして明日には食べられるかな。
確か、エヴァンは明日ずっと屋敷で仕事らしいし、おやつの時間にでも持っていってあげようかな。楽しみだなぁ♡
「……何だ、うきうきだな」
「そう見えます?」
「うん」
夜、何かに気がついたらしいエヴァンがそう聞いてきた。だけど、まだ秘密ですよ。
「ほーら、明日も仕事でしょ。早く寝ましょ」
「おしゃべり大会でもいいけどな」
「寝た寝た!」
ベッドに入ってきたエヴァンにさっさと布団をかけて、おやすみなさいと挨拶をした。
喜んでくれるといいな。
……なんて思っていたけれど。
「……あの、匂い嗅ぐのやめてもらっていいですか」
「別に減るもんじゃないだろ。なんか甘い匂いするな」
「……します?」
「する。なんか、フルーツみたいな? なんか替えた?」
「替えてないです」
もしかして、ジャムを作った時の甘い匂いが残ってた……? お風呂にはちゃんと入ったんだけど……おかしいな。