元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!
◇18
結婚生活が始まって、慣れたかな? ってくらいの頃。エヴァンが王城から帰ってきて、お出迎えをした時。
「えっ……!?」
いきなり私の目の前まで来て、頭を肩に乗せてきたのだ。軽く抱きしめてきて。真顔だったけど、一体何があった。
「エヴァン?」
「……」
「……エヴァンさーん、大丈夫ですかー」
「……つっ……かれたぁ……」
すっごく小さな声で、聞こえてきた。だいぶ疲れたらしい。ちーん、という効果音が聞こえてきそうだ。でも、髪がくすぐったい。
「疲れた時の甘いものですね。ヨーグルトがいいですか?」
「いちごジャム」
「はいはい」
けれど、感じた。香水の甘い匂いがする。
「執事ぃ、風呂ぉ……」
「かしこまりました」
何となく、何があったのか分かった気がした。お疲れさまでした。
最近疲れてたように見えていたけれど、なるほど、そういう事だったのか。
お風呂から帰ってきて食堂に来たエヴァンは、生き返ったかのようにバクバクと夕飯を食べていた。だいぶ食べるなこの人。そしてお約束のヨーグルトも平らげてしまった。
「何があったんです?」
「……新婚に言い寄る馬鹿ばっかだった」
「……お疲れさまでした」
「はぁぁぁぁ、あいつら頭ん中お花畑か? 物事の常識すら分かってないお馬鹿どもに付き合ってるくらいならうちの可愛い嫁を可愛がりたいんだが」
「……」
いや、遠い目でそういう事言わないでくださいって。こっちが困るんですって。
「はぁぁぁぁぁ……」
「……それ、私が顔出さないのが原因ですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……はぁ……」
「別に、私が出ればいいだけの話じゃないんですか?」
「……」
何です? そのふくれっ面は。頬っぺた膨らませてもイケメンってずる過ぎる。いや、そうじゃなくて。
「私のところに来るお茶とかパーティーとかの招待状を悉く蹴り飛ばしてるのが原因でもあるんでしょ。なら、出ますよ?」
「……」
「それとも、元貧乏貴族の私が隣では恥ずかしいですか?」
「それはない」
あ、即答なんだ。
「なら、何でもいいのでパーティーにでも何でも参加すればいいだけでしょ」
「……はぁ、ウチの嫁さんは男前だなぁ……惚れ惚れするよ」
「なんです、それ」
「しょうがないな。なら、奥さんのお望み通り助けてもらっちゃうか」
最初っからそう言えばいいのに。ここに来た時、自由にしてていいって言われたけどさ。でもやる事はやらなきゃ。自由で贅沢な生活と、実家と領地の支援までしてもらってるんだから。
それに最近疲れ切っちゃってるじゃない。たぶん、結婚したから余計言い寄る人が増えたんじゃないのかな。結婚前もだいぶ来てたみたいだし。ドンマイ。
でもこれはイケメンに生まれたさがね。それも優秀で大公家なんてすごい家に生まれちゃったわけだし。それだけは仕方ない。