元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!
なんだか、会場の周りに並べられてるケーキなどが何回も目に入ってそっちに目が行ってしまう。デビュタントの時は目を輝かせて食べてたなぁ、なんて思い出した。でも今は屋敷で食べてるから食べたいとは思わないけれどね。ちゃんと座って食べたい。
「大公様」
そんな時、声がかけられた。若い女性の声。
「うげぇ」
なんて声が聞こえてきたけれど、それを無視してそちらに目を向けた。私と同じくらいの歳の女性がいて、なんとも煌びやかなドレスを身にまとっていた。
エヴァンがこんな声を出してくるとなると……知り合いかな?
「昨日ぶりですわねぇ、お加減いかがですかぁ?」
なんという、猫なで声。私なんてガン無視で近づいてくるし。けれど、私が手を乗せていたエヴァンの腕がスッと抜け、その後がっしりと両肩を掴まれ、くるっと180度回転、反対側を向かされ今度はがっしりと掴むかのような勢いで肩を抱かれその場から去ろうとしていた。
「は~いテトラちゃんはこっちね」
「大公様ぁ~!」
「あ?」
「っ……!?」
後ろから追いかけてきたさっきの女性に向けた、エヴァンの顔は……怖かった。そんなに嫌なの? 怖っ。
それより、いきなりくるっと回されて肩をがっしり掴まれたらそりゃびっくりする。一言言ってくれ、一言。
「ご機嫌斜めですか」
「……」
「帰ったらヨーグルトですね」
「いちごジャム」
「はいはい」
はぁ、エヴァンの気持ちも分かるな。なんて思っていたけれど……
「大公様ぁ!」
「エヴァン様ぁ!」
お可愛らしい女性陣が集まってくる。お前はご令嬢を引き寄せてるのか? まぁその美貌と持ってるものを見れば寄ってくるだろうけれども。でも私を空気にするのはやめてほしい。マジで。
しかもエヴァン、痛いくらいに私の手握ってるし。絶対に逃がさんぞって言われてる気がする。私空気なんですけどね?
でも、自分で言い出したからにはちゃんと仕事はしますよ。
「こんばんは、お嬢さん方」
少し前に出て、笑顔を向ける。ご令嬢達は私に目を向けてきた。
「いつも私の夫がお世話になっているようですね」
手を離し、むぎゅっとエヴァンの腕を抱きしめた。
「夫がとってもカッコいい方なのは私も理解出来るわ。でも、この人は私のなの。だからごめんなさいね」
今度は私が腕を引っ張ってその場を離脱した。ちょっと、いやだいぶ恥ずかしかったけれど言ってしまったのだからやる事はやる。
「これで文句ありませんか」
「……」
「……エヴァン?」
さっきから黙り込んでしまったエヴァンの方に視線を向けると……真顔でこっちを見ていた。
「……男前だな、俺の奥さんって」
「どこがです? 自分で言ったんですからちゃんと仕事はしますよ」
あの、どうしてそんなにびっくりしてるんです? そんなにびっくりするようなことしましたっけ、私。
それからも、ことごとく私がご令嬢を蹴り飛ばしていった。というか、ご令嬢多くないですか。はぁ、エヴァンがあんな様子で帰ってくるわけだ。