元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

「……エヴァンさん、生きてます?」

「この野郎、裏切りやがって……」

「いや、裏切ってませんって」


 あれから、少しだけご令嬢と話をしているといきなり登場したエヴァンに腕を掴まれ、あ~れ~と連れ去られてしまったのだ。そして、今は帰りの馬車である。なんか、げっそりとしているように見えるのは見間違いだろうか。しかも、香水臭いし。

 とりあえず、帰ったらお風呂といちごジャム入りのヨーグルトの準備だな。


「お疲れさまでした」

「お前が俺を助ける話だったのにな?」

「最初は役に立ってましたよね?」

「最初だけな?」


 あ、はい、すみませんでした。でも、若さって勝てないものですね。あのきゃぴきゃぴご令嬢達には勝てなかった。若さって怖い。あぁ、あと乙女心?


「罪な男ですね」

「そんな男を旦那にしたのはテトラだがな?」

「王様の推薦ですけどね?」

「……あの野郎」


 いや、そんな事言っていいんですか。甥とはいえ、不敬でしょ。

 なんて話をしていたらすぐに屋敷に到着。エヴァンを風呂場に押し込んだ。の、だが……


「重いのですが」

「俺を裏切った罰」

「……」


 このくっつき虫め。後ろから抱き着いてきて、どこを歩くにも全然離れない。執事達に目で助けを求めてもほんわかした目を向けてくるし。いや、そういうんじゃないって。

 それにさ、罰とか言ってもルイシア嬢に手を引っ張られて離れちゃっただけであって、私は悪くないし。手を離したエヴァンも悪い。……と言いたいところではあるけれど、もしそこでエヴァンが手を離さなかったら、綱引きが始まって私の身体が引きちぎられるところだったかもしれない。

 でも、ルイシア嬢、よく私の事引っ張れたな。ご令嬢達に囲まれていた私を。ある意味すごい。


「で、寝るのもこれですか」

「逆」

「わっ!?」


 寝室に辿り着き、ベッドを目の前にするとエヴァンにぐるっと後ろを向かされ、抱っこをされた。よっこいしょっ、と。その掛け声はいらなかったなぁ。なんて思いつつ、思うがままにエヴァンと向かい合ってベッドに入ったのだ。


「まぁだご立腹ですか」

「……」


 ほぉら、まだふくれっ面だ。それでいて顔が整ってるからそんな顔でもカッコいいのはずるい。ふにふに片方の頬っぺたをつまんでみると、何とも言えないちょうどいい弾力。いいな、これ。


「今度はもっと役に立ちますから、機嫌を直してください」

「……役に立つとか」

「え?」


 エヴァンの小声が聞き取れず聞き直そうとしたら、エヴァンが起き上がった。そして、布団がかかったまま、私に上からのしかかってきたのだ。潰れるくらいの体重はかかっていないけれど、少し重い。

 何よ、一体何が気に入らなかったのよ。そう思っていたら……キスをされた。


「んぅっ、んんっ」

「っはぁ……この野郎」


 だいぶ長いキスの後、ようやく離してくれたと思ったら、だいぶ近い距離に顔を持ってきて睨んできた。


「お前、周り気にしなかっただろ」

「……周り?」

「はぁ、これだからウチの奥さんは……」

「……何です、それ」


 周り? エヴァンに群がってたご令嬢達の事を言ってるの?


「失敗だったな、ウチの奥さん可愛くしすぎた」

「……は? 何言ってるんです? っ!?」


 エヴァンの頭が動いたかと思うと、私の顔の下、首辺りにくすぐったさを感じ、それからチクリと痛みを感じた。いや、まさか……


「油断しすぎで冷や冷やしたんだぞこっちは。それなのにお前と言ったら……周りを気にしなさすぎ」

「んぅっ」


 何かに起こっているようなエヴァンが、私の両頬をつまむ。一体何が気に入らなかったんだ。ちゃんと言わないと分からないんですけど。

 そう思っていたら、またキスをされた。それがだんだん深くなってきて、バシバシとエヴァンの肩を叩いても聞いてもらえず。ようやく離してくれると、とんでもない事を言い出した。


「明日は寝坊確定」

「はぁ!?」

「お前は黙れ」


 一体何に起こっているのか分からないまま、エヴァンの宣言通り寝かせてもらえなかったのだった。


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