元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

◇21


 そして、エヴァンに見送られながらトマ公爵邸に向かったのだ。可愛い可愛い言ってたのを無視したけれど、あの人今日仕事だよね。大丈夫か。


「お待ちしておりました、オデール大公夫人」


 とても綺麗な女性が待っていた。大体60代くらいだろうか。そして、自己紹介をして。


「では、こちらへどうぞ」


 と、案内をしてもらった。

 公爵邸とあって、とても綺麗なお屋敷だ。今日は温室の方でお茶会をするらしく、もう皆さんがお揃いらしい。私は一番身分が上だから、一番最後に会場入りする。

 温室は、屋敷のお庭とは全然違うものが植えられていてとても綺麗。ウチにも温室はあるけれど、全然イメージが違う。

 温室に入り、少し奥に進むと、女性達の話し声が聞こえてくる。今回のお茶会の招待客達だ。

 私達に気が付いたその方たちは、立ち上がって頭を下げた。お初にお目にかかります、と。トマ夫人が一人ずつ紹介をしてくださってから、お茶会がスタートした。

 ……はず、なのに、何故かこの場が静まり返ってしまった。お茶とお茶菓子を用意されたんだけど、周りは何も言わずに目も合わせず紅茶を嗜んでいる。え、お茶会ってこういうのなの?


「……はぁ」


 そして、その沈黙を破ったのはトマ夫人。


「大公夫人となられた方ですから、一体どんな女性なのかと思いましたけれど、こんな小娘だとは思いませんでしたわ」

「……」


 小娘、ですか。

 突然のそんな発言に、私は結構ビックリしている。なるほど、そういうパターンもあるのか。

 エヴァンが怖い人って言ってたけど、こういう事?


「私達より上の、上位貴族であられる方だというのに、これでは品位が下がるというものよ」

「国王陛下は一体何をお考えなのかしら。こんな若い小娘を選ぶだなんて、他国の方々が見れば何と言われるかと思うと困ってしまうわ」


 だいぶ呆れたような事を言ってくるご夫人達。なるほど、今回の私達の結婚をあまりよく思ってないみたいね。


「しかも、あの貧乏貴族で有名な家門の方をお選びになるとは……」


 ……へぇ、貧乏貴族ですか。


「おっしゃりたいことはそれだけですか?」

「……」

「あなた方は、結婚相手に私を推薦なさったのは国王陛下だとご存じですか?」

「えぇ、お聞きしましたわ」

「確かに私は貧乏ではありましたけれど……国王陛下に見込みがあると思ってくださったからこそ、推薦してくださったのだと思います」


 まぁ、本当はエヴァンのタイプであって王族派の家門の令嬢だったから、だけどね。


「ですから、期待を裏切ることは出来ません。まだこの歳ではありますが、これから大公夫人という名に恥じぬよう精進しようと思っています。ですから……――周りのご夫人達に見習って勉強させてもらいますね?」


 そうして、皆さんに笑顔を見せた。見習う、という事は今彼女達がしていることも見習わせていただくという事。彼女達は、今の態度が失礼に値すると分かっているはずだ。それなのに、その態度を見習うと言っているのだからこれはマズいと思うだろうな。

 さて、どんな反応をするだろうか。そう思っていたら……トマ夫人が私に向かって微笑んだ。そして、立ち上がると周りの夫人達も一緒に立ち上がり、私に頭を下げたのだ。


「失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした」


 こうも簡単に謝ってくるとは思わず、素っ頓狂な顔をしてしまった。しかも、さっき微笑んでいたし、どういう事なのだろう。

 どうぞ座ってください、と頭を上げてもらうと他の夫人達も表情が柔らかくなっていた。さっきまで真顔だったのに。


「大公夫人を試すようなことをしてしまって申し訳ありませんでした。ですが、初めてお会いした方ですし、夫人のお立ちになられている場所を考えるとどんな方でいらっしゃるのかを知りたかったのです」

「なる、ほど……」

「人間性を見るためには怒らせるのが一番ですから、ああいった態度を取らせていただきました。ですが、ご夫人は私達が侮辱したにも関わらず、怒鳴り散らさず、そのまま流すこともしなかった。それだけ、冷静な心をお持ちだということです」


 まぁ、前世で鍛え抜かれた鋼の心を持っていますからね。ブラック企業ではないけれど、だいぶ扱かれましたから。


「以前行われた王妃殿下主催のパーティーでのお姿を拝見いたしましたが、あんなお姿だけのお方だったらどうしましょうと皆で話していたのです。ですが、きちんとした方でよかったですわ」


 ……それ、あれだ。すっごく恥ずかしかったやつ。


「ですが、もう少ししっかりしていただかないとこちらが困りますわ」

「え?」

「貴族派の家門にいる女性方の事です。あのまま野放しにしておくつもりですか? 貴族派のご令嬢やご夫人達を好き勝手させているようでは大公夫人が務まりませんわ。舐められたらそこで終わりですよ。しっかりしてください」

「……はい」

「いいですか、貴族社会で女性はご夫人が一番上なのです。上の方が女性社会を仕切らなければ他の者達が好き勝手してしまうのは当たり前の事でしょう? ですから、ちゃんと取り締まってください。我々も微力ながらお手伝いいたしますわ」


 ……微力? 微力なのか? こんなに怖い人が、微力?

 それから、女性社会についての講習会を開いてくださった。聞けば聞くほど、私の立っている場所がなんとも恐ろしいところだったんだと背筋が凍ってしまった。でも、なってしまったのだからやる事はやらないといけない。ちゃんとやります。

 自信はないけれど、なんて言ったら絶対に怒られるな。
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