元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!
「皆さま、オデール大公夫人がご到着いたしましたよ」
ルイシア嬢がそう言った次の瞬間、私の方に視線が集められた。そして……クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「お初にお目にかかります、オデール大公夫人」
ぞろぞろと集まってきて、自己紹介をされた。この状況が理解出来ず、ただ挨拶をするしか出来なかった。
「あら? オデール夫人……そのお洋服、ガーデンパーティーには向かないもののようですわね。やっぱり、こういった貴族の常識はまだご理解いただけてないようですわね」
そう言ってくるご令嬢は、馬鹿にしたかのような目でこちらを見てくる。
あぁ、なるほど。
その言葉ですぐに理解出来た。私は、罠にかかったという事だろう。
そりゃあ、私はお茶会だと聞いてこの服を用意したのだからそうなるでしょうね。
「ルイシア嬢、大公夫人は元貧乏貴族で貴族のお洋服なんてちゃんとしたものを買ってこられなかったのですから、仕方ありませんわ」
「そうですわね。ですが、この国の大公夫人となると、女性貴族の中では一番上の地位におられる方ですわ。これでは困りますわね」
長時間立つことになるガーデンパーティーと、立ったり座ったりが多くなるお茶会。貴族の中では専用の服がいくつもあるのだ。本当に面倒だよね、これ。
けどさ、そこまで馬鹿にしなくてもよくない?
「お茶会、とお聞きしたのですが」
「あら、お洋服を間違えてしまったからという言い訳ですか? いやだわ、大公夫人ともあろうお方が言い訳をするなんて!」
あー、なるほどなるほど。
「やっぱり貧乏貴族に大公夫人なんて無理に決まってますわよね」
「私達まで恥ずかしいわ~」
そう言った声が聞こえてくる。クスクスと笑い声まで。なるほど、私を馬鹿にしようと思ってるのね。
とりあえず、カチンときた。いや、これでカチンとこない方がおかしいって。
「いやだわ、子供のいたずらにも程があるわよ?」
そう、大きな声で言ってやった。
そんな私の態度に、醜いものでも見たかのような目を向けてくる。そして、最初に挨拶をしてきたご令嬢が私の前に立った。斜め後ろから見てくるルイシア嬢は、にっこりと微笑んでくる。
「何ですって」
「目上の地位にいる方には敬意を払う。教育係に教えてもらわなかったのかしら。貧乏貴族の私でも分かることなのにね?」
「相応しくない方に言われたくないわ。わたくしたちは教えて差し上げてるだけじゃない。どんな地位にあなたは立ってしまっているのかを」
「へぇ。私には、欲しかった地位を別の者に持ってかれて妬ましく思ってるだけのお嬢さんにしか見えないけれど?」
「妬ましく? 嫌だわ、そんな品のない言葉を使うだなんて」
「……はぁ、揚げ足取りにも程があるわ。結婚に文句があるのならもったいぶらずに言えばいいものを。怖くて言えないのかしら?」
「……そうね、私達はあなたが相応しくない、と思っていますの。ちゃんと言って差し上げないと分からないとは、困ったものですね」
あーやだやだ、これだからチヤホヤされて生きてきたお嬢さん方は。でも、私にこんな事言ったところでどうにもならないのだけれどね。それがお嬢様方には理解出来ないのか。
だから、私はこう言ってやった。
「この結婚、国王陛下の推薦で成立したものですけど」
ズバッと。
思った通り、ここにいる者達は驚いていた。やっぱり知らなかったのね。
国王陛下が、私を選んだ。そう言ったのだから。