元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を横臥する!
「う、嘘おっしゃい。それ、不敬罪よ……!」
「本当よ。だって、私デビュタント以来ずっと領地にいたもの。ほら、貧乏貴族だから社交界で遊んでる暇なんてひとつもなかったから」
「そ、そんな事……貧乏貴族のくせにっ!!」
あんれまぁ、怒らせちゃったかしら。
「エヴァン様の婚約者候補にあなたなんか入ってなかったじゃないっ!! 本来なら上位貴族である公爵家のルイシア嬢になるはずだったのよっ!! それなのにどうしてあなたが選ばれるのよっ!!」
「あら、分からないの? じゃあ、分からないご令嬢達に教えてあげる。問題です、その婚約者候補の中で《王族派》のお家の方はいらっしゃるでしょうか?」
「え……?」
「王族、派……?」
レブロン子爵領の屋敷にお偉いさんが手紙を届けに来たあの日。お偉いさんは候補の中には貴族派の者達ばかりだと言っていた。そうなってくると政治のバランスが崩れてしまうと。
「うちはずっと王族派であり、歴史のある家よ。だから私にお声がかかったの」
「れ、歴史のある、ですって? 貧乏貴族の家に何の歴史があるっていうのよ!!」
「あら、信じられないの? そうね、今は貧乏貴族って言われているけれど、最初から貧乏だったわけじゃないわ」
「……何ですって」
そう、レブロン子爵家は最初から貧乏というわけじゃなかった。
「そうね、とあるレブロン子爵家の当主が、運のない人だったからよ。その時代、紡績業によって裕福な暮らしをしていたの。ある時、事業拡大のためにお金をつぎ込んで準備をしていたのだけれど……隣国の政策でこちらが大打撃を受けてしまったの。これではまずいと紡績業を諦めて、農業に力を入れたわ。子爵領では農業も盛んだったからね」
子爵領はまぁまぁ広い領地を持っていたし農業をするのに適した土地だった。けれど……
「でもその年、大寒波が領地を襲って全部ダメになった。領民達もこれには困ってしまったわ。ちょうどその時は、子供が増えて人口が増加していた。これでは生活が困難になるわ」
そう、本っ当に運がなかった。やばいくらいに。不運にもほどがある。
「そこで当主は考えたの。この子爵領と爵位を国に返還し、自分達は平民としてつつましやかに生活すればいいのでは、と。でも、その考えはすぐに消したわ」
運がなかった。けれど、どうしてここまで家が消えなかったのか。それは……
「その時代、早くに国王陛下が亡くなってしまったの。王妃殿下も王太子殿下がお生まれになった後すぐに亡くなってしまったから、残された王族は王太子殿下のみ。でも、まだ5歳だからと王室は大騒ぎとなっていたから、そんな時に子爵領を返還しても、後回しにされるのは分かっているわ。だから、当主は腕まくりをし自ら領民達と一緒に働いたの」
「えっ……」
「は、働いた……?」
「そう。幸い、その当主は周りと縁があったから助けてくれる家がいくつかいたみたいなの。だから、ここまで家を守ってこれたという事よ」