元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

◇24


「じゃあ、王城でな」

「……はい」


 私がずっと避けていたからなのか、あっさりと出かけていってしまったエヴァン。用事があるから、エヴァンは先に王城に行き、私はパーティーが始まる夜の時間の少し前に向かう事になっている。そして、合流して会場入りだ。

 ずっと避けていたけれど、エヴァンはどう思っているのだろうか。

 好き、だなんて言われた事がないから、どうしたらいいのか全然分からない。


「はぁ……」

「奥様、ではご準備に取り掛かりましょうか」

「うん、よろしく」


 結婚して、半年とは言わないけれどもう数ヶ月も経った。それだけ、エヴァンと一緒にいた時間が過ぎたという事。

 いつも、からかってくるし、可愛い可愛い言ってくるし。それが、まさか好きだなんて言ってくるなんて。likeならまだいい。それなのに、その後……


『それとも、まだ足りないのか? なら……――〝愛してる〟』


 まさか、そこまで言われてしまうとは。そもそも、前世からそんな事言われた事なんて一回もない。だからこんなに動揺してるのかは分かってるけどさ。


「……えっ」

「いかがですか、奥様」

「これ、エヴァンが?」

「はい。だいぶ悩んでいらっしゃいましたよ」

「……」


 でしょうね、と言いたいところではあったけれど、それどころじゃなかった。

 目の前にある、エヴァンが選んでくれたらしいドレスは、とても素敵だった。まるで、エヴァンの瞳の色をした青と、私の髪に似た水色が入ったドレス。


「……いくらしたんだろ」

「そんな事はお気になさらないでください。例え最高価格のものであっても旦那様は奥様の為なら手に入れるはずですよ」

「……」


 本当だろうか。いや、それを考えると恐ろしく感じるからやめよう。

 ドレスを着てみると、すごく着心地がいい。重そうなのに全然軽い。これなら長時間パーティーに参加していても疲れないわね。


「さ、奥様。こちらは旦那様からのプレゼントです」


 そう言ってマーラが見せてきたのは……見覚えのあるものだった。これは、結婚式の後に私の髪で試着したヘアクリップ。一番最初に試した、白い花が縦に並んだクリップだ。確か、ブルートパーズに変更してたんじゃなかったっけ。


「これって……」

「奥様の為だけに作られたものですよ」


 私の為に?

 量産型のものだと思ってたんだけど、違ったんだ。


「前々から準備されていたのですが……旦那様が、これを付けて可愛くなった奥様を野郎共に見せたくないと言い出してしまいまして、そのままだったのですよ」

「……言いそうね」


 前にも言われたことある、そんな感じの事。


「じゃあこれは、私のご機嫌取り?」

「さぁ?」


 ずっと避けていたから、渡してきたって事だろうか。


「奥様、最近の旦那様は、とても楽しそうにしていらっしゃいました。奥様がいらっしゃる前はずっと仕事ばかりしていらしたのですよ? 睡眠時間が極端に減る時もございました」


 仕事人間。なるほど、まぁロイヤルワラント商会の取締役商会長だし、大公家の当主だから忙しいよね。


「旦那様、最近奥様が話して下さらなくなってしまって、とても悩んでいらしたのですよ? やっちまった、と。テトラ~、と仕事中に何度も奥様のお名前を言ったらっしゃったみたいですしね」

「……マジ?」

「はい」


 そんな事になってたの……? そういえば、避けてたからちゃんとエヴァンの事見てなかった。

 私も、エヴァンの事をずっと考えてたな。どうしよう、どうしよう、って。前みたいに普通に話したかったけど、今の私に出来るだろうかって思うと自信がなかった。

 心臓のバクバクが止まらない。

 でも、こんな言葉聞きたくなかった? と言われると答えられない。

 じゃあ、実家に帰りたい? 離婚したい? ううん、そうは思わない。

 ずっとここにいたい。エヴァンの近くにいたい。


「さっ、終わりましたよ。そろそろ出発しないといけないお時間ですから、急いでくださいね」

「うん」


 じゃあ、これって何だろう。

 ううん、これは知ってる。


「さ、どうぞ奥様。足元にお気を付け下さい」

「うん、行ってきます」

「いってらっしゃいませ」

「気を付けて」

「うん、ありがとう」


 早く、エヴァンに会いたい。

 ごめんなさい、しなきゃ。
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