元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
さっきまでの、あの恐ろしさを思い出すと、不意にエヴァンを強く抱きしめた。
「こ、こ、怖かったぁ……」
「そうか。ごめんな、早く見つけてやれなくて」
「エヴァンと、会えなく、なるのが……怖かった……」
「……そうか」
「ごめ、なさい……」
「別に謝らなくていい。テトラに手を出した犯人が悪いんだから」
「避けちゃって、ごめんなさい……」
「そっちか。別にいいって、俺が悪かったんだから。つい言っちゃったってだけ」
「……」
そうじゃない……そうじゃないの……!
「エヴァン、大好き……」
「……はぁ、恐ろしいなウチの嫁さんは」
私を離すと、不満げな顔をするエヴァンの顔が見えた。一体どこが不満だんだろうか。けれど、笑ってきて、そして、キスをしてきた。
「かーわい、テトラ」
「……」
「そんじゃ、さっさと帰、ろう……」
私の後ろを見た、エヴァン。床に視線を送っていて、真顔になっていた。一体何が? と思い私もその視線の先を見てみると……
いきなりエヴァンが立ち上がると、早足で犯人の男の元へ。そして……
「うっ、ぐぅっ、痛っ!!」
「てめぇ!! よくもっ!! やってくれたなっ!!」
ガシガシと、足で何度も強く踏んづけていた。あぁ、これか。頭皮を掴まれて何本か抜けてしまった私の髪。はぁ、本当に私の髪好きね、エヴァン。
「万死に値する。おい、遠慮はいらないぞ。さっさと連れてけ」
「はっ!」
あんれま、連れてかれちゃった。
だいぶ怒ってるな、エヴァン。
「あ、ねぇ、さっきね、私の名前が書いてあった紙を見つけたの」
「名前?」
これ! と指を差し、エヴァンに見せる。と……またまた怖い顔をしていた。
「あぁ、なるほどな……」
「え……」
「一緒に屋敷に行くつもりだったけど、一人で帰ってくれないか。用事が出来た」
「待て待て待て、まさか……」
「ぶっ飛ばしに行ってくる」
「待って!! じゃあ私も行くっ!!」
「アホか! さっきまでナイフ突きつけられてたやつが!!」
「やられたらやり返すのが普通でしょ!! 一発殴らせて!!」
やられっぱなしは嫌よ。せめて犯人の顔くらい拝ませてよ。
渋っていたエヴァンは、仕方ないなと了承してくれた。けど……
「……重くないですか」
「軽い」
「あ、はい、そうですか……」
まさかまた抱っこされるとは思わなかった。しかもこの前のこと覚えてたし。レディに失礼って言ったやつ。