元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
◇5
次の日の朝、玄関の騒がしさで目を覚ました。
「……ったくもぉ……朝から何よ……」
一体何が起こっているのか分からず、すぐに準備をして向かった。
声を荒げているのが聞こえ、それを辿ると玄関にたどり着いた。
「一体どういうことなのだ!!」
「ですから、今説明した通りです。それにより、あなた方との縁談話はなかったことにしてもらいます」
「そんなわけあるかっ!! 相手はこの国の大公殿下だ、分かりやすい嘘をつくのはやめたらどうだ!!」
あぁ、あのドラ息子の親である商会長か。昨日息子が捕まりそれを聞いて朝こちらに来た、と言ったところか。お父様が対応しているようだけれど、これは何を言っても聞く耳を持たないだろうな。さて、どうしたものか。
「朝から何も連絡なしにここに押し掛けるなど、迷惑です」
「よく言えたな。こちらには借金があるというのにそんな口をきいてもいいのか」
まぁ、そうなるだろうな。どう返すかはまだ考えていなかった。さて、どうしたものかと思っていたその時、いっそいでこちらに走ってきた使用人が一人。ぜーはーぜーはーと息切れをしつつも、こう言った。
「オデール大公家の馬車がこちらに向かっておりますっ!!」
「……は?」
「はぁ!?」
そんなはずが! とその場にいた私達三人はいっそいで玄関から出た。見えたのは、馬車。
「……」
「……」
「……マジか」
……の、行列。何台もの馬車の行列が私達の屋敷の前に向かってきていた。そして、目の前に到着したのだ。
私達は、魂が抜けて放心状態で馬車を見つめていた。すると、馬車から一人の男性が降りてきた。見たところ、執事のような服装をしている。でも、使用人にしてはとても高級な制服を着ている。これが、身分の差というやつか。
「オデール大公家の者でございます。大公殿下の命により、レブロン家への結納の品を持ってまいりました。どうぞお納めください」
こちらをどうぞ、と結納品のリストを渡されお父様と一緒に覗いたが……目が飛び出そうになった。
宝石に、装飾品に、織物に、ワインに、金貨に、と高価なものばかり。でも、下の方には……
「小麦、に、野菜がいっぱい……」
「どれも、保存期間の長いものばかりだ……」
「今のレブロン子爵領に必要なものを恐れながら私が選ばせていただきました。いかがでしょう」
「えっ」
うちの現状を知って、理解して、選んでくれたんだ……今、農作物がほぼ全滅しちゃってるからお金もなく、一番は食糧不足が問題だった。これは、とてもありがたいものばかりだ。
「ウチの働き者達も連れてまいりましたので、どうぞこき使ってやってください」
「えっ、でも、悪いです、こんなに……」
「ご令嬢から結婚のご了承をいただけてこちらもだいぶ助かりました。その恩返しとでも思って、何も言わずに受け取ってください」
……まさかの、救世主。私が結婚を了承しただけで、こんな事になるとは微塵も思っていなかった。
しかも、さっきまで怒鳴り散らしていた男は今腰を抜かしてそこに転がっている。顔がだいぶ見ものだ。なにこれ、どうしたらいい? てか、ちょっとお父様泣かないで!?
「本当に……本当に……お礼を言っても言い切れないな……」
「いえいえ、それは旦那様の方に直接おっしゃってください」
「わ、かりました……」
「旦那様は一ヶ月前から国境にいらっしゃいまして、つい3日前に国境から出発したという知らせを受けました。もう式のご準備も完了しておりますので、旦那様がご到着なされたらすぐに式を執り行う事になります。お嬢様にはそれより先に大公家へ入っていただくことになります」
「……」
「……」
「……おや? 聞いておられませんでしたか?」
聞いてませんけど。ちょっと。まぁ、急ぎだとは言っていたし、昨日の今日だったけれどさ。でもちゃんと言ってほしかったですよ。しかも、その手にあるものは何ですか。
「旦那様からの、プレゼントでございます」
「……わぁ」
小さい箱には、指輪が入っていた。え、結婚指輪?
「結婚指輪は式で付ける事になりますので、これは婚約指輪という事になりますね」
一体これ、何日間使う事になるんだろうか。それにしても、なんだか急ぎすぎやしませんか。ちょっと。一体何を考えてるんだ。
隣にいるお父様はもうすでに頭がショートしている。私もショート寸前だよ。
なんか、私達、置いてけぼりになってない?
そして次の日。だいぶバタついた出発という事になってしまった。
「お父様……私、恐ろしくなってきた」
「安心しなさい、私もだ」
これ、了承してよかったのだろうか。一体このバタバタは何なのだろうか、聞きたくても聞けない。恐ろしく思っちゃうから。
これから、どうなってしまうのだろう……