捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
そんな疑いを持ち始めてからというもの、私の頭の中は「浮気」の二文字が嫌な色合いで染められていった。

かといって、それ以上何かあるわけでもなく、雄一は至っていつも通り。浮気でよくあるような、携帯電話にロックをかけるだとかトイレにまで持ち込むだとか、そんな素振りはない。

「莉子、顔色悪いけど大丈夫か?少し休んだら?」
「うん、ありがとう。大丈夫よ」

ほら、ちゃんと私のことを気遣ってくれる。
いつも通りソレイユでは優しい雄一。

きっと私の思い過ごしよね。雄一が浮気なんてするはずないもの。だって私のことを束縛したがるし、先日もそろそろ結婚しようかって、話してくれたし。

それなのに疑ってしまうなんて、ちょっと落ち着こう私。
信じよう、雄一のこと。

そう思ったのに――

ある日ソレイユでふわっと香る、あの匂い。
よく覚えている、雄一が夜遅く帰ってきたとき、一度だけ香水の匂いがした、あの匂いが鼻をかすめた。

はっとなって周りを見渡す。お客さんはまばらで、その匂いを確かめるべく食器を下げるふりをしてぐるりと回ってみる。けれどもうその匂いはどこにもなくて、思い過ごしかなとほうっと息を吐いた。

あの日からいろいろな事を気にしすぎている気がする。疑い出したこの気持ちを払拭したくて、いつも以上に家事を頑張ってみた。よくやってるって褒めてほしいのに、結局「手際が悪い」「どんくさい」と罵られただけだった。だから払拭するどころか、ますます疑いが強くなってしまって、最近の私は疑心暗鬼だ。
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