捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
今日の昼のアルバイトは桃香ちゃんだけ。その桃香ちゃんは雄一と一緒にキッチンで楽しく談笑しながら仕事。片や私は疑惑を抱えたまま、一人ホールで黙々と仕事をこなした。

雄一は桃香ちゃんと浮気をしている……?

頭に渦巻くのはそのことばかり。聞きたいことはたくさんある。だけどもし間違っていたら? 確信につながる何かがほしい。ううん、ほしくない。私はまだ雄一を信じてるから。……本当に?

一人で考えるには冷静さに欠ける気がした。かといって、こんなこと誰かに相談できるわけもない。誰にも言えず、モヤモヤした気持ちを抱えて苦しくて仕方がない。どうにかしたいのに、どうにもできない。

カララン、と扉が開いて、私は深呼吸。気持ちを切り替えて「いらっしゃいませ」と笑顔を向けた。

「こんにちは」
「あ、穂高さん。いらっしゃいませ」

今日はお一人でご来店の穂高さんを、いつもの角の席へご案内する。穂高さんはスーツの寄れなく凛とした佇まいで、眼鏡の奥の瞳を柔らかく緩ませた。優しくて落ち着いた雰囲気に、先ほどまでのどす黒い感情がゆるりと浄化されていくよう。

「どうかされましたか?」
「あ、いえ。今日もお仕事お疲れ様です」

穂高さんの胸に金色のバッチが光る。穂高さんは弁護士をされていて、裁判所に出向く際はバッチを付けているのだと、前に教えて下さった。今日もそういうお仕事だったのだろう。

私の視線に気づいてか、穂高さんはバッチを取ってカバンに入れた。
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