捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
お昼時になるとホールはアルバイトさんにお任せして、私はキッチンに入って雄一と分担しながら料理を作る。

お昼のピークを過ぎるまでは目が回る忙しさで大変だけど、お店が賑わっているのはとてもありがたいこと。

ピークを過ぎてからアルバイトさんを交代で休憩させて、私はまたホールに出る。

「莉子、先昼飯行くか?」

雄一が気をつかって聞いてくれるけど、雄一こそ働きづめだから先にお昼ご飯を食べたら良いと思う。そうやって言えば、「俺はキッチン(ここ)で摘んでるから問題ないよ」とニカッと笑った。

「じゃあ私も、そうする」

「無理すんなよ」

「ありがと」

雄一は、調理師専門学校時代の同級生だ。
ソレイユを継ぐと決めたけれど、祖父が引退すると共に祖母も辞めてしまったし、キッチンは私一人になった。さすがに一人では無理だ。

長年働いてくれているアルバイトの千景《ちかげ》さんは残ってくれたけれど、他は辞めてしまった。

ソレイユを継いだと思ったのに、ゼロからのスタートと一緒だった。

「求人、出してみたらどう?」

「確かに、そうですね」

「少しずつ、頑張っていきましょうね」

「千景さん、ありがとうございます」

千景さんにアドバイスされて、求人情報を載せたり、調理師専門学校時代の友達にも誰かいないかと連絡を取った。

そんなときに現れたのが、同級生の久保雄一だった。私が友達に連絡した情報が、雄一にも伝わったのだろう。彼はちょうど転職先を探していて、カフェで働きたいと思っていたところだったらしい。

学生の時は同級生というだけで、全然話したことはなかった。でも面接に来てくれた彼はとても爽やかで感じが良く、経歴も申し分なかった。

「一緒にソレイユを盛り立てていきたい」

そう言われて嬉しかったことを覚えている。

キッチンに入ってくれる即戦力が見つかり、私も千景さんも一安心だった。だからといってすぐに経営が軌道に乗るわけでもなく、経営者がかわることでお客さんが離れてしまったことも事実。それでも、祖父の代からの常連のお客様にも助けられながら、ソレイユは生き残ってきた。

そしてその間、私と雄一の関係は、雇用主と従業員という立場から友人に代わり、ソレイユを一緒に盛り立てていく戦友へと変化していった。

一年も過ぎる頃には、私はすっかり雄一のことを信頼しきっていた。
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