捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
4.雨の中の救世主
雨が降り注ぐ。傘を差すことも忘れて、目的もないままただひたすら歩いた。

あの場に出ていくこともできたはずなのに、足は動かなかった。二人の会話が怖かった。私は何も悪いことはしていない。ソレイユだって譲るつもりはない。だからもっと強くありたかったのに……。

「うっ、うっ……」

やり場のない怒りは胸をぎゅうっと締めつける。涙があとからあとから溢れてきて、雨と一体化した。

「うわぁぁん、うわぁぁん」

誰もいない歩道橋の上、声を上げて泣く。下を走る車の音と激しく降る雨の音で、泣き声は掻き消されていく。誰も私のことなんて気にしていない。私という存在がなかったかのように、夜の闇に溶け込んだ。

『二人で暮らしたら節約になるし、お金貯めてさ、貯まったら結婚しよう』

雄一にそう言われて嬉しかった。一人じゃないんだって思わせてくれた。その言葉を糧に、今日まで頑張ってこれたのに。

ふと、死んだら楽かなと頭をよぎった。でもだからといって死ぬ勇気はない。ぐちゃぐちゃの感情は、どうしたらいいかわからない。

ポケットに入れている携帯電話が鳴った。放っておいたら切れて、少ししてまた鳴りだした。

雄一……なわけないか。
おばあちゃんだったら出ないとなぁ。

ほんの少し、残っていた気力で着信を確認する。

「え……」

表示された名前に、思わず目を見張った。
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