捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
ほかほかになった体でリビングへ顔を出すと、ソファへ促された。

「どうぞ。温まりますよ」
「ありがとうございます」

コトリと置かれたマグカップからは甘い香りが漂う。ハチミツとレモンの優しい味わいに、ほうっとため息が漏れた。

「すみませんが、僕もシャワーを浴びてきてもいいですか?」
「えっ、あっ、もちろんです!」
「一人で大丈夫?どこにも行かないでくださいね」
「……大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません。あ、あの、これ。私、着替えを持っていたのでお返しします」

穂高さんから受け取っていた厚手のシャツを渡す。着替えを持っていたからといって穂高さんの家でラフな格好に着替えた私は、なんだか場違い感が半端ない。これではまるで泊まる気満々みたいじゃないか。そういうつもりではない。ないのだけど……。

急に焦りを覚えた私は身を小さくした。行き場のない私を家に招き入れてくれた穂高さんはとても優しいけれど、きっと迷惑に違いない。だから、早く出ていかなくてはいけないのに――

「あなたが無事で本当によかったです」

ふっと笑みを残して、穂高さんは足早にリビングを出ていった。残された私は穂高さんの言葉をじわりじわりと噛みしめる。胸が熱くなって泣きたくなった。
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