捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「……すみません、こんな話をしてしまって」

ぽろり、と涙が溢れる。もう十分泣いたと思っていたけれど、まだ湧き出てくるらしい。ぐすぐすと鼻をすすると、ふいに穂高さんの手が私の両手を包んだ。

「つらいことを話させてしまいましたね」

そう優しく包みこんでくれる穂高さんの顔も苦しそうで、彼をそんな気持ちにさせてしまったことを申し訳なく思った。

「本当に……すみません……」
「謝ることは何もありません。莉子さんはこれからどうしたいですか?」
「これから……?」
「そうです。こんなにつらい思いは今日で終わりにしたいですよね?」

穂高さんの言葉にこくりと頷く。
浮気をしている雄一とはもう一緒にいられないだろう。桃香ちゃんとも、一緒に働くなんて苦しい。だけどそれよりも私は――

「ソレイユを守りたいです」

私の一番大事な場所。祖父から譲り受けたソレイユは、私だけじゃなくお客さんみんなの気持ちもたくさん詰まっている、大切でかけがえのない空間。絶対に渡したくない。

穂高さんの手がより一層私の手を強く握った。温かくて大きな手。その温もりを感じるだけで、心が少しだけ強くなれそうな気がする。

「莉子さんは、本当に変わりませんね」
「え……」
「昔から、ソレイユのことばかりです」
「だって、それは……」
「悪いと言っているんじゃないです。ソレイユに嫉妬してしまうなと思っただけです」
「……え?」

言っている意味がわからなくて、首を傾げる。
穂高さんは「いや、なんでもないですよ」と肩をすくめた。
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