捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「それに、僕も既婚者というステータスを手に入れたいと思っていました。弁護士として、箔が付きますから。まあいわゆる利害の一致、ということですよ」
「……利害の一致」
「莉子さんはソレイユを守ることができる。僕はステータスを手に入れる。悪くない話だと思いませんか?」

穂高さんの眼鏡がライトを反射してキラリと光った。
こんなふざけた話があるわけがない。そんな提案馬鹿げている。
そう思うのに――

それがたったひとつの道標のような気がしてならない。
どん底に落ちている私の道を切り開く、一筋の光。

ソレイユを守りたい、その気持ちが私の心を揺るがす。いいのだろうかと思いながらも、気持ちはどんどん穂高さんへ傾いていく。

縋ってもいいの?
甘えていいの?
こんなの、迷惑でしょう?

「莉子、結婚しよう」

ぎゅうっと包み込んでくれる穂高さんの手が温かくて、胸が熱くなった。
それに、”莉子さん”じゃなくて”莉子”って呼ばれたことにトクンと心臓が揺れる。雄一に呼ばれる「莉子」とは違う、もっと優しくて柔らかい声音。その真剣な眼差しは、私の心を揺るがすには十分すぎるほど熱い。

「……はい」

声が震えてしまう。
視界がぼやけ、穂高さんの顔を見ることができなくなった。

穂高さんの親指が、私の頬をなぞる。
ぽろぽろ溢れる涙を優しく掬ってくれた。

穂高さんの大きな手が私の髪を掬って耳にかける。その指が耳をなぞり首筋を這う。触れられた肌が熱を帯びるように熱く、身体の奥を疼かせた。

指がフェイスラインをなぞり、顎を掬う。ほんの少しだけ上向きにされた私は、真正面から穂高さんに見つめられた。

「契約成立ですね」
「……」

穂高さんの甘く情熱的な瞳に吸い込まれそうになった。
ほんの少しばかりあったよそよそしさが取り払われていくような、そんな心地よさに胸が震える。

「……お願いします」

小さく頷くと、優しく頭を撫でられる。
穂高さんの温かさと心地よさに、また泣きたくなった。
だけど同時に不安にも苛まれる。
穂高さんも雄一みたいに豹変したらどうしよう。
そんなことないと思いたいけれど、すべてを信用することもできなくて心がザワザワと不穏な音を立てた。
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