捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
5.嘘つき
翌朝、思ったよりも早く目が覚めてしまった私は、手持ち無沙汰にリビングへ顔を出した。まだ薄暗く、カーテンの隙間からもあまり光が入ってこない。しんとしたリビングは、テレビの電源の小さな赤い光だけがともっている。ソファには薄い掛け布団を掛けて穂高さんが寝ていた。

ああ、やっぱり夢じゃなかった。

昨日の出来事はすべて現実で、何一つ状況が変わらないまま朝を迎えてしまった。

ソレイユは今日も営業。雄一も桃香ちゃんもいる。昨日あんな状況を見てしまったというのに、どんな顔をして会えばいいというのだろう。冷静でいられるだろうか。

「おはよう、莉子さん」

いつの間にか穂高さんが目を覚まし、体を起こしていた。くしゃっと前髪を掻き上げてから、テーブルに置いてあった眼鏡をかける。

「早起きだね」
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「いや、大丈夫だけど。もしかして眠れなかった?」

穂高さんはソファをトントンと軽く叩く。隣に座ってという合図に、大人しく従った。

「……夢じゃなかったんだなって思って」
「うん」
「全部、夢だったらよかったのにって、思って……」

そっと、頭に何かが触れた。視線を上げると、穂高さんの腕が伸びていて、頭を撫でられていることに気づいた。

「苦しいな」

眉を下げる穂高さんがぼやける。泣きたくないのに勝手に涙が溢れてきてしまう。昨日あんなに泣いたのに、まだ涙は枯れていないらしい。情けなくて辛くて、胸が苦しくてどうしようもない。

ふっと肩を引き寄せられて、ぽすんと穂高さんの胸に包まれた。

突然のことに思考が回らない。

「あ、あのっ」
「泣いたっていい。でも、泣くのは俺の胸の中だけにして。俺が絶対守ってみせるから」

力強い言葉に胸が震える。
そんな風に甘やかされたらどうしたらいいかわからなくなる。
だって、私たちは利害の一致で結婚するんだよね?
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