捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
身支度を整えて、鏡の前でよしと気合いを入れる。昨日から泣いてばかりだったけれど、思ったほど目は腫れていない。化粧でごまかせそう。

もう、泣かない。私には穂高さんっていう強い味方ができた。雄一と桃香ちゃんの思うようにはさせないんだから。

「穂高さん、お世話になりました。仕事に行ってきます」
「ちょっと待って。はい、これ」
「え……」

目の前に差し出されたのは銀色の鍵。両手で受け取ると、ずっしりとした重みにドックンと心臓が跳ねる。これって……。

「合鍵。持っていて」
「いいんですか?」
「いいもなにも、俺たちは結婚するんだから当然だろ?」

結婚という言葉に、一際ドキドキと鼓動が速くなる。刻一刻と近づいていく現実が、緊張感を増していくようだ。

「いってらっしゃい、莉子さん」
「……いってきます」

玄関先で見送ってくれる穂高さんにペコリと頭を下げて、私は足早にソレイユへ向かった。

変に心臓がドキドキとしている。まさか玄関先まで送り出してくれるとは思わなかった。雄一と暮らしていたときは、たいてい雄一の方が遅く出勤する。先に家を出る私を玄関先まで見送ってくれることは、一度たりともなかったからだ。

それだけ穂高さんが優しいということなのだろうか。些細な嬉しさだと思うのに、体の奥から満たされる感じがするのはなぜなのだろう。でもおかげで、今日の私は頑張れる気がする。まるで勇気と元気を充電してもらったみたい。

「よし! がんばる!」

声に出して気合いを入れた。
今日は絶対めそめそなんてしない。
絶対にソレイユを守り抜くんだから。
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