捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「莉子、あんまり客とイチャつくなよ」
「え?」

意味がわからなくて目をパチクリさせた。
私がいつ誰とイチャついていたというんだろう。わけがわからなくて困惑していると、桃香ちゃんがクスクスと笑う。

「しょうがないですよー。莉子さん愛想めちゃくちゃいいですもん。そう見えても仕方ないですよね?」
「……そんな風に見える?お客様に、今日も美味しいねって雄一に伝えてって言われただけなんだけど」
「そうか、ならいいんだ」
「雄一さんったら、莉子さんのこと好きすぎてヤキモチが過ぎますよぅ」
「だな」

二人がふふっと笑うので、私もニコッと笑ってみせた。けれど、心の内はモヤモヤだ。
イチャイチャだというなら、君たちのほうがイチャイチャしてるように見えるんですけど……。

って、これはヤキモチなのかしら?

よくわからない気持ちを吹き飛ばすように、ブンブンと頭を振る。今は仕事中、集中しなくちゃ。

気を取り直して、桃香ちゃんへレジの使い方を教えつつ石井さんのお会計をする。

「ありがとうございました。またいらしてください」

桃香ちゃんはレジもそつなくこなし、可愛らしい笑顔で石井さんを見送った。もうそろそろ一人でレジを扱わせてもいいかもしれない。

カラランと扉が閉まって、店内が閑散とした。お客さんはいるけれどまばら。ふう、と一息つく。ランチタイムが終わると次はカフェタイムが始まるため、それに向けて準備だ。

「さっきの人、めちゃくちゃイケメンでしたよね!」
「え?石井さんのこと?」
「莉子さん接客したんでしょう。いいなー。今度また来てくれたら声かけちゃおうかなぁ。でもああいうタイプの人って、笑顔の裏に何かありそうで怖いですよねぇ」

もうお二人の姿が見えなくなった扉を見つめながら、桃香ちゃんが冷たい視線を向けた。
人に対しての第一印象だとか、合う合わないとかはあっても仕方がないとおもうけれど、少なくとも私は石井さんをそんな風に見たことがない。
それに――
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