捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
昨夜と同様に先にシャワーを浴びさせてもらった。雄一に蹴られて地面に転がったから、あちこち汚れていたのだ。

ここは穂高さんのマンションで、まだお邪魔するのは二回目だというのに、どうしてか自分のアパートにいるよりも落ち着く。もちろん、穂高さんと二人でいるのは緊張するけれど、穂高さんは雄一のように突然機嫌が悪くなったり声を荒げたりしないから。雄一と離れることで、こんなにも心に余裕ができるなんて思ってもみなかった。

「足、見せて」

ソファに座っている私の前に、穂高さんが膝まづく。足に触れられ、ドックンと心臓が揺れた。

何を意識したというのだろう、穂高さんは私のケガの状態を診てくれているだけなのに。優しい手つきにドクドクと鼓動が速くなっていく。触れられた部分が彼の体温を感じ取って、敏感に反応する。

「いっ!」

そんなふわふわとした気持ちを打ち消すかのように、ズキッと痛みが走った。

「ごめん、強く触りすぎた」
「あ、大丈夫です」
「少し腫れてる感じがあるな。湿布貼るから動かないで」

穂高さんは丁寧な手つきで処置をしてくれる。湿布を貼っただけなのに、急にすっと痛みが引いていく感じがした。そして穂高さんの手が離れていくことに、変な寂しさを覚える。まるでもっと触ってほしいかのように、身体の奥のほうがきゅんと疼いた。

「背中も見せて」
「えっと……きっと大丈夫なので……その、恥ずかしいですし」

それに、これ以上触られたら、なんだかおかしな感覚に支配されそうな気がして、やんわりと断った。けれど穂高さんも「だめだ」と譲らない。

「心配なんだよ」

辛そうな穂高さんの顔。
この人はいつもそうだ。私のことを心配するとき、辛いような切ないような、泣きそうな表情をする。本当に私のことを心配してくれていることが伝わってきて、心苦しくなってしまう。

見せるのは背中だけだし、いいよね……?
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