捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
どれくらいそうしていたのだろう。
穂高さんに抱きしめられて、心臓がドキンドキンと激しく脈打つ。この振動が彼に伝わらないだろうかと心配だ。だけど安心感にも包まれていて、このまま離さないでほしいとも思う。

それくらい、私は穂高さんに惹かれているのかもしれない――

優しくて責任感の強い彼に守ってもらいたいと同時に、私も彼を包んであげたくなってしまう。彼の心の痛みを和らげてあげたい。

……結局それは、私が心配をかけてしまったからそうなっているだけなのかもしれないけれど。

「……穂高さん?」
「ん……。ごめん、なんか落ち着く」
「ふふっ、甘えん坊さんみたいですね」
「そうかもね」

ようやく微笑んでくれた穂高さんは妙に色っぽくて、またドキンと心臓が揺れた。それに、すごく距離が近くて……。彼の長い睫毛だとか、綺麗な二重なんだなとか、いろいろなことが気になって……。

ふっと緩められた腕。
あ、離れちゃうんだ……なんて思ってしまった自分の心に、焦る。私ったら何を考えているの。

「どうした?」
「な、なんでもないですっ!」

一瞬心を見透かされたのかと思った。

穂高さんはなんだかいろいろと心臓に悪い。だって彼はものすごくかっこいいんだもの。イケメンだなって思ってはいたけれど、一緒に過ごすとそれがなおさら良くわかる。顔だけじゃなくて性格も、優しくて繊細で、それなのに大きくて温かい。私が想像するより何倍も大きな包容力で、柔らかく包みこんでくれる。

「莉子さん、シャツ着ようか」
「えっ、あっ!」

いつの間にか私は前を隠すことも忘れて物思いに耽っていた。穂高さんはクスっと笑って、ソファに転がっているくしゃくしゃになったシャツを頭からすっぽり被せてくれた。そして乱れた髪を手で整えてくれる。穂高さんの大きな手は優しくて温かい。撫でられるたびに気持ちが落ち着いていくよう。
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