捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「婚姻届を準備しておいたから、名前書いてくれる?」
「えっ、あっ、わかりました」
テーブルの上に紙が一枚ペラリと置かれた。落ち着いていた心臓がまたドキドキと騒ぎ出す。婚姻届はもうほとんど記入されていて、あとは私の名前を書くばかり。
書いて提出したら、穂高さんと夫婦になるんだ……
緊張で手が震える。こんな形で結婚するだなんて、思ってもみなかった。
「大丈夫? やっぱり嫌だった?」
「いえ、そうじゃなくて……穂高さんに申し訳ないです。私なんかと結婚してもらうだなんて……」
「莉子」
呼ばれて顔を上げる。すると、とても穏やかな顔をした穂高さんと視線が絡んだ。
「俺は嫌だとは少しも思わない」
真剣な表情でそう言われるものだから、ゴクリと喉が鳴る。穂高さんの口から紡がれる私の名前。「莉子」と呼ばれると胸がきゅっとなる。どうしてこんなにも優しく名前を呼んでくれるのだろう。
「……ありがとうございます」
震える指を抑えながらどうにか名前を書く。と、証人欄に祖父の名前が書かれていることに気づいた。
「え……これ……」
「ああ、佐倉さんに了解を取って証人欄を書いてもらった。本当はきちんと二人で挨拶に行くべきだと思うけど、ひとまずね」
「そうだったんですか」
「ごめんな、勝手に動いて」
「いいえ。まさか祖父に証人欄を書いてもらえるなんて思ってもみなくて……」
利害の一致で結婚するといいながら、ちゃんと私のことを考えてくれている穂高さんに頭が下がる思いだ。だけど祖父は私が雄一と付き合っていることを知っていた。それなのに急に穂高さんと結婚するだなんて、祖父はどんな気持ちでこれを書いてくれたのだろう。ありがたいような申し訳ないような、複雑な気持ち。入院して大変なのに、心労をかけていないだろうか心配だ。
感情が高ぶり、じわっと視界が歪んだ。
思わず穂高さんのシャツをぎゅっと掴む。
「えっ、あっ、わかりました」
テーブルの上に紙が一枚ペラリと置かれた。落ち着いていた心臓がまたドキドキと騒ぎ出す。婚姻届はもうほとんど記入されていて、あとは私の名前を書くばかり。
書いて提出したら、穂高さんと夫婦になるんだ……
緊張で手が震える。こんな形で結婚するだなんて、思ってもみなかった。
「大丈夫? やっぱり嫌だった?」
「いえ、そうじゃなくて……穂高さんに申し訳ないです。私なんかと結婚してもらうだなんて……」
「莉子」
呼ばれて顔を上げる。すると、とても穏やかな顔をした穂高さんと視線が絡んだ。
「俺は嫌だとは少しも思わない」
真剣な表情でそう言われるものだから、ゴクリと喉が鳴る。穂高さんの口から紡がれる私の名前。「莉子」と呼ばれると胸がきゅっとなる。どうしてこんなにも優しく名前を呼んでくれるのだろう。
「……ありがとうございます」
震える指を抑えながらどうにか名前を書く。と、証人欄に祖父の名前が書かれていることに気づいた。
「え……これ……」
「ああ、佐倉さんに了解を取って証人欄を書いてもらった。本当はきちんと二人で挨拶に行くべきだと思うけど、ひとまずね」
「そうだったんですか」
「ごめんな、勝手に動いて」
「いいえ。まさか祖父に証人欄を書いてもらえるなんて思ってもみなくて……」
利害の一致で結婚するといいながら、ちゃんと私のことを考えてくれている穂高さんに頭が下がる思いだ。だけど祖父は私が雄一と付き合っていることを知っていた。それなのに急に穂高さんと結婚するだなんて、祖父はどんな気持ちでこれを書いてくれたのだろう。ありがたいような申し訳ないような、複雑な気持ち。入院して大変なのに、心労をかけていないだろうか心配だ。
感情が高ぶり、じわっと視界が歪んだ。
思わず穂高さんのシャツをぎゅっと掴む。