捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「あ、あの……」
「おはよ」
「あ、おはよう……ございます」

すっと伸びてきた腕は私のおでこを触り、そして首元へ当てられる。ひんやりとした穂高さんの手。やっぱりお布団がなかったから冷えちゃってる。

「熱、大丈夫?まだ熱いような気がするけど」
「大丈夫です。穂高さんが冷えてるからそう思うんじゃ……」
「ん……そうかな。じゃあちょっと温めて」
「え? わっ!」

ぐいっと引き寄せられたかと思うとぽすんと穂高さんに後ろから抱きかかえられる。私が穂高さんに掛けてあげた布団の中にしっかりと入れられて、狭いソファの中でぴったりと密着した。

えっ!
ええっ!!
ど、どうしよう!!!

バックンバックンと心臓が壊れそうな音を立てる。なんでこんなことになっちゃったんだろう。穂高さん、嫌じゃないの……?

どうすることもできずに、ただ大人しく穂高さんに抱きしめられている。穂高さんを好きだと自覚した今、この状況はすごく嬉しいけれど、穂高さんが何を考えているのかわからなくて動揺が激しい。心臓の音が穂高さんに伝わってしまいそう……!

と、「すー」と寝息が聞こえて抱きしめられている腕の力がほんの少し緩まった。

まさか、穂高さんったら寝ぼけていたのだろうか。でも少し会話したし……。どういうこと? 私、どうしたらいいの?

抜け出すこともできずにそのまま身を任せる。穂高さんの温かさがゆっくりと伝わってきて、体の奥の方がきゅんとなった。

こんなことになるなんて、思いもよらない。だけどこれを嬉しいと思ってしまっている私がいる。たとえ穂高さんが寝ぼけて私を抱きしめてくれたのだとしても、冷えてしまった穂高さんを温めてあげられるなら本望かもしれない。穂高さんが起きたら、ごめんなさいって言おう。だから、それまでの間はこのままでもいいよね?

穂高さんの温かさとほんのりとしたシトラスの香りに包まれて、幸せな気持ちで目を閉じた。こんな風に気持ちが楽になるのが、ずいぶんと久し振りな気がした。
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