捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
え……。
今、なんて言った?
報酬は莉子……?

「わ、私?」
「そう、莉子さん」
「な、何をすれば……?」
「何をしてもらおうね?考えておくよ」

穂高さんは楽しそうにクツクツと笑った。
だけど私は笑えない。だって、「報酬は莉子」って、もしかして体目当てだったりするのかしらなんて不埒な考えが頭をよぎって落ち着かないからだ。

いやいや、落ち着け私。穂高さんがそんなこと考えるわけないじゃない。そうだ、あれでしょ。昨日も今日も穂高さんに朝食を作ってもらったから、次は私が作る番……っていうか、飲食店経営してるんだから、食事作りは私が担当ね、とか、そういうことよね?

そもそも色気すら皆無の私に穂高さんがときめくとも思えないし、昨日ブラジャー姿見られたときだって笑われたくらいなんだから。

ふと、雄一と桃香ちゃんの会話がフラッシュバックした。

『ねえ、莉子さんともエッチしてるの?』
『あいつ? 最近はしてないな。まあしたところで、つまんないけど』
『つまんないんだ?』
『言わなきゃやらねータイプ。上手くもないしな』
『へー。莉子さんって下手なんだ』
『そうそう。その点、桃香は最高の女だよ』

ぎゅっと胸が詰まる。
もし……もしも……万が一だけど、穂高さんとそんなことになったとしても、私なんてつまらないって幻滅されてしまうかもしれない。上手なやり方なんて知らないし。

「――さん、莉子さん?」
「は、はいっ!」
「なんか、悩ませちゃった?」
「あ、いえ。私にできること、何かなって考えてただけです」

慌てて頭の中の不埒な妄想をしゅっしゅっと追いやる。穂高さんは不思議そうに首を傾げながらも、「笑っててくれたら、それで嬉しいけど」と優しく頭を撫でてくれた。

「私が笑ったら、嬉しいですか?」
「嬉しいよ」

何の躊躇いもなくそう言ってくれるので、自然と笑顔になった。一緒に、穂高さんも柔らかく笑ってくれる。

穂高さんが笑ってくれたら、私も嬉しい気持ちで満たされる。彼の笑顔は私に元気と勇気をくれるみたい。
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