捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「すみません。ずっと赤字が続いていたんです。だから、申し訳ないんですが、一旦ソレイユを閉めます」
「莉子、お前……」

雄一がこちらに寄ってきたかと思うと、満面の笑みで肩を強く引き寄せられた。

「ようやくわかってくれたのか。じゃあさっさとここを売ろう」
「い、いたっ……!」

痣になっているところに雄一の指が食い込む。けれどそれはすぐに穂高さんによって引き剥がされた。

「君にはソレイユを辞めてもらう」
「はあ?何言ってんだ、こいつ。莉子、お前こいつに騙されてるんじゃないか?頭おかしいだろ」

雄一は蔑んだ目で私と穂高さんを睨んだ。今さら雄一に何を言われようが何をバカにされようが、別にどうでもよかった。でも、いつでも私の味方になってくれている大切な穂高さんをバカにされることは許せない。腹立たしくムカムカとした気持ちが湧き上がってくる。

「騙されてない。騙していたのはあなたでしょう。浮気してたくせに、私と結婚してソレイユを売ってお金にしようとしてたじゃない」

考えるよりも先に感情が口をついて出る。ずっと我慢して言えなかったことが、穂高さんという味方をつけたことでタガが外れたかのように湧き出してきた。何か言えば二倍三倍となって返ってくることも、今はすっかりと抜け落ちている。

「てめぇ、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。そもそも俺がいなかったらソレイユは潰れてた。お前だけじゃ何もできないからな。それにこいつ、よく来る客だろ? 浮気してたのはお前なんじゃないのか?」
「ち、ちがっ……」

反論しようとした私を、穂高さんが手で制した。

「君の浮気の証拠、出しましょうか?」

柔らかく落ち着いた口調なのに、強く威厳のこもった言葉。雄一がぐっと押し黙る。

穂高さんは持っていた封筒から何枚か写真を出す。そこには桃香ちゃんだけではなく、別の女性とも親密にしている姿があり、私は思わず口元を押さえた。

浮気の証拠は私も掴みたかった。だけど目撃したあの日だって写真一枚すら撮ることができなかったのに、穂高さんはどうやって手に入れたのだろう。それに、浮気相手がまさか桃香ちゃんだけじゃなかったなんて。

「こ、こんなの、別に浮気でもなんともないだろ。ただ女と一緒にいただけで、どうして疑われなくちゃいけないんだ」
「弁護士さん、私、雄一さんに脅されていたんです。俺の女にならないとソレイユを辞めさせるって。莉子さんにもちゃんと説明してます。そうですよね、莉子さん」
「えっ?あ……」

確かにそう言われたけれど、それを信じることができるかと言えば、そうでもなくて――
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