捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
桃香ちゃんへの教育は、私と千景さんが行う。桃香ちゃんは愛想がいいし、素直でとてもいい子。常連さんにも「可愛い子が入ったね」と受け入れられている。雄一や千景さんとも上手くやれているみたいだし、安心していたのだけど。

「莉子ちゃん、ちょっといい？」
「はい、何でしょうか」

お客さんが少なくなった頃、千景さんに呼ばれてそちらへ行くと、千景さんはふっと声を潜める。

「莉子ちゃん、優しさとお人好しは似ているけど全然違うものなの。時には厳しくでいいのよ」
「あ、はい。私何かしましたか？」
「ううん。そのことをちゃんと肝に銘じてね。マスターによくそう言われていたのをふと思い出しただけよ」

そういう千景さんの視線の先には、雄一と楽しそうにおしゃべりをする桃香ちゃんの姿があった。モヤっとする気持ちが再びむくむくと湧き上がる。

そういえば桃香ちゃんは、雄一の友達からの紹介でアルバイトの面接を受けてくれたんだった。桃香ちゃんはカフェで働くことに憧れていたらしく、採用されて嬉しいと話してくれた。

そこに、何も疑問を感じなかったし、あれこれ詮索することもしなくて――

「わかりました。ちゃんと肝に銘じます」

うんと大きく頷く。
けれど千景さんはふふっと上品に笑って、

「優しさもお人好しも、莉子ちゃんの良いところなんだけどね」

と、肩をぽんと撫でてくれた。
なんだか温かい気持ちになって、胸が詰まる。
千景さんはまるでお母さんみたいだ。
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