捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「俺は桃香に騙されていたんだ。こいつの実家が不動産屋で、市場より高くここの土地を買ってくれるって言うから。だからその金で、莉子と新しくカフェを作ろうって話してた。そうだ、莉子とは結婚の約束だってしていたよな。そうだろ、莉子」

必死に訴える雄一は私の方へ歩み寄ってくる。それを穂高さんがすぐに遮った。私の目の前には穂高さんの背中。雄一の顔は見えない。何を言われても、穂高さんが守ってくれると言ってくれているみたい。大きくて頼もしい背中に胸が熱くなる。

「結婚の約束なんて、証明できないでしょう? それに先ほど莉子さんとは別れたと、自分で言っていましたよ」
「俺は別れることを認めてない」
「そうなると、君は不倫を認めたことになるけれど、それでいいですか?」
「は?不倫?」
「不倫となると慰謝料を請求したいですね。僕の大切な妻に手を出したということですから」
「どういうことだよ!」
「莉子さんは僕の妻ですよ」
「は……?」

これほど狼狽えて慌てふためいている雄一を見るのは初めてだった。いつだって私のことを蔑んで見下していた彼が、とても間の抜けた顔をしている。

「莉子、お前騙していたのか!」
「人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。君が莉子さんと別れてくれたおかげで、莉子さんと結婚できたんですから。むしろ感謝しています」
「はあ?そんなふざけた話があるかよ!」
「あるんです。これが現実ですよ。それから、赤の他人がソレイユの土地に手を出すなんて言語道断です。他に何かありますか? いくらでもお相手しますよ」

ニッコリ微笑む穂高さんに、もう雄一はブツブツと悪態をつくだけになった。彼に適うものは何もないのだと言わんばかりの余裕が、穂高さんから感じられる。桃香ちゃんに至ってはテーブルに突っ伏してぐすぐすと泣いている。

私から雄一と桃香ちゃんに掛ける言葉は、何ひとつ浮かんでこなかった。少しスッキリとした気持ちがある反面、何だかやるせない気持ちに胸がチクッと痛んだ。
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