捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
8.解放
話し合いは早々に終わった。というより、反論する気力の残っていない雄一と桃香ちゃんを、穂高さんが弁護士事務所へと連れて行った。

残った私と千景さんは、ソレイユを開店させるわけにもいかず、ひとまず家に戻ることになった。今後のことは何も決まっていないのに、「ソレイユを再開するならまた雇ってね」と千景さんに優しく微笑まれて泣きそうになった。

穂高さんからはゆっくり休んでいてと言われている。雄一と住んでいたアパートも片付けなくてはいけないと思いつつも、今はそんな気分にはなれない。私は初めて合鍵を使って穂高さんのマンションに帰った。

ソレイユを守るために穂高さんとの結婚を了承したけれど、あっさり解決してしまった。こんな状況でも、穂高さんは私と結婚したままでいてくれるのだろうか。穂高さんは、結婚していることが箔が付くなんて言っていたけれど……。

悩んでも答えは出ない。
悩み事はまだまだたくさんある。

「ソレイユをしばらく閉めます」と言ったのは、穂高さんとの作戦だった。でも結局、閉めざるを得ない。私一人で今までのようにソレイユを経営するのは難しいからだ。これからどうしていくのか、考えなくてはいけない。

「はあ……」

思わずため息を吐く。
ダメダメ、こんな弱気じゃ。せっかく穂高さんにいろいろと助けてもらったんだから、頑張らなくちゃ。

手持ち無沙汰に掃除と洗濯を始めた。二日間も使わせてもらったベッドのシーツも、この際だから洗っておこう。

ふと、「報酬は莉子さんで」という言葉が頭を過った。

穂高さんはどんな意味でそれを言ったんだろう。何をしたら穂高さんにとって報酬になるんだろうか。こんなに助けてもらっているのに、私ったら何ひとつお返しできていない。

「……ご飯でも作る?」

ぶつぶつと独り言を呟きながら冷蔵庫を開ける。少しの食材しかなくて、うーんと考えたあげく、買い物に出ることにした。
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