捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される
「それにしても莉子ちゃんが結婚かぁ。相手はソレイユで一緒に働いてる人?」
「あ、ううん。彼とは別れて、違う人と結婚したの」
「そうなんだ。写真とかないの?」
「あー……ないなぁ」
「えー、見たかったのにぃ」

口を尖らす結愛ちゃんに、私は曖昧に笑う。穂高さんと結婚したといっても写真一枚すらない。利害の一致婚だから、きっとこの先も何もない。それが寂しくて胸がズキンと痛む。その現実を考えたくなくて、「結愛ちゃんは、最近どうなの?」と話題を変えた。

「私?私はさぁ、仕事辞めてダラダラ過ごしてる」
「えっ、そうなの?」
「うん、人間関係に疲れちゃってさ〜」
「そうだったんだ。大変だったのね?」
「まあね。でも辞めたらすっきりしてさ、次はどこで働こうかなって探してるところよ」

あっけらかんと言ってのける結愛ちゃんだけど、きっと大変な思いをしたんだろうな。学生の頃から結愛ちゃんは頑張りやさんだったから。おしゃれなカフェで働きたいって、よく言っていたっけ。

「飲食店狙い?」
「うん。それ以外に仕事できる気がしないもの。でも求人情報だけじゃそのお店の雰囲気とかわからないじゃない。だから口コミとかチェックしまくってたんだよね。それでソレイユの悪評見つけて……って、ソレイユ大丈夫?」
「あー、うん。ちょっと今日から休業するつもり」
「そうなの?もー、私たちお揃いじゃん」
「ほんとだね。どうしよう」
「どうしようって……。どうしようね?」

私たちは顔を見合わせて、お互い困ったように笑う。結愛ちゃんも私も、先の見えない未来に不安がいっぱいだ。だけどこうしてお喋りしながらゆっくり過ごす時間も、心の栄養には大事なことなんだろうなって思う。結愛ちゃんと話をしているだけで、少し気持ちが晴れていくような気がするから。

ソレイユで働いている時も、お客さんと会話をするのが楽しかった。私はいつもまわりの人から元気をもらっていたんだな。
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